君が居てくれたから

君が居てくれたから


 毎年、僕は桜舞うこの季節になると君のことを思い出すんだ。たまたま同じ病院に入院して君と生きた3ヶ月を、、
 
 君は遠い空の向こうから今も僕を見てくれているだろうか、、あの優しいまなざしと笑顔でもう一度僕に笑いかけて欲しい、、
 
 君が居てくれたから
 
 ストーリー1
 
 高校のサッカー部に所属している僕は毎日毎日練習に明け暮れていた。
 そんな僕に異変が生じたのは僕が高校2年の冬だった。
 
 原因不明の倦怠感を毎日感じるようになった。
 何気なく近所のかかりつけ医にかかると地域にある大学病院を紹介された。
 
 そして、僕と父と母に大学病院から精密検査の連絡が来た。漠然とした不安を抱えながら僕たち親子は大学病院を訪れた。
 
 その日は朝から曇っていて空を分厚い雲が覆っていてこの先の不安を現しているようだった。
 僕は父と母と大学病院に向かった。
 大学病院に着くと父も母も凄く心配そうだった。
 
 「母さん、ちょっと飲み物買ってくるね」
 「うん。向こうに自販機あるから行っておいで!」
 
 この後のことなど何も考えてなかった僕は病院から見える景色を眺めながら歩いていた。
 
 「ゴツン!!」
 
 「痛ったぁ!」
 「痛ったーーーい!」
 ふと見ると僕と同い年くらいの女の子が僕の前で倒れていた。
 
 「ごめん! 大丈夫?」
 「大丈夫じゃない、、手貸して!」
 「あ、うん。」
 「ちょっとあんた! 前見て歩いてよね!」
 「ごめん、、」
 「まぁ、いいや。私急いでるからごめん!」
 そう言うとその少女は僕の前をスタスタと歩いて行った。
 
 「なんだあの娘。変わってるな」
 「まっ、いいか。それより戻らなきゃ」
 お茶を買って席に戻ると病院から名前を呼ばれた。
 
 「本間 駿さん、外来3番にお入りください」
 僕たち家族は先生が待つ診察室に入った。
 
 「あの、今日から入院してもらっていろいろと精密検査をしましょう!」
 
 「分かりました」
 
 「先生、駿は悪いのでしょうか?」
 「今は何とも言えません。ただ駿くんのために検査をしましょう」
 
 「分かりました。駿をよろしくお願いします」
 
 それから、僕はここ産医医科大学病院に入院することになった。
 1度帰宅して入院準備をして再び病院に行くと僕はそのまま入院することになった。
 
 「こんにちは」
 「君が本間 駿くん?」
 「はい」
 「君の担当看護師の佐々木です」
 「よろしくね」
 「はい」
 「サッカーしてるんだってね」
 「入院頑張ろうね!」
 「はい。よろしくお願いします」
 
 それから3日間検査入院すると翌週両親が呼ばれた。
 
 僕と両親は診察室に呼ばれた。
 
 「駿くんを担当することになった佐藤です」
 「先生。駿は大丈夫なのでしょうか?」
 「非常に申し上げにくいのですが副腎に悪性腫瘍が見つかりました」
 「それって駿は死ぬってことですか?」
 母は取り乱していた。
 「いえ。がんはステージ1なので手術で腫瘍を切除します」
 「必ず僕が駿くんを救うので心配しないでください」
 「今日からしばらく入院して治療しましょう」
 「もう、サッカー出来なくなるね、、」
 
 「駿。病気を治すことが大事よ」
 「先生。駿をよろしくお願いします」
 母は涙ぐんでいた。
 
 父と母は凄くショックを受けていた。
 もちろん僕もショックを受けたけどあまり現実感がなく、何か夢を見ているようだった。
 
 「それじゃ駿、頑張って!」父は力強く言った。
 「駿。頑張るのよ。ちゃんとお見舞いにくるから、、」母は涙ぐんでいた。「うん。母さん大丈夫だよ。心配しないで、、」そして僕は602号室に入院した。
 もうすぐ1年が終わる12月初めのことだった。
 
 ストーリー2
 
 入院した翌日、僕は病院のデイルームから外の景色を見ていた。
 
 すると突然、僕の後ろで声がした。
 
 「こんにちは。新人君!」
 ふと後ろを見ると先日、自販機の前でぶつかった少女が立っていた。
 
 「この前はごめん」
 僕は少女に謝った。
 
 「君もこの病院に入院しているの?」
 「うん。そうだよ」
 
 「あのさ。君、名前何て言うの?」
 少女が僕に聞いてきた。
 
 「駿だよ。本間駿」
 「君は?」
 「ヒミツ、、って言いたいところだけど君には特別に教えてあげようかなぁ、、」
 「愛。村岡愛」
 
 「もう、この病院は長いの?」
 「ううん。君より1週間先輩だよ」
 
 「駿は何の病気?」
 「副腎のがんだよ」
 「愛は何の病気なの?」
 「あのさ、絶対に秘密だよ、、」
 「うん、、」
 「白血病だって、、」
 「急性骨髄性白血病」
 「その病気良くなるの?」
 「分かんない、、」
 「でも、たぶん死ぬと思うよ」
 「死ぬ、、の?」
 「うん、多分死ぬと思う」
 駿がうつむいていると愛が駿に言った。
 
 「だから、君は悲劇のヒロインの私に優しくしなさい」
 「分かった?」
 「うん。約束するよ」
 「よし!それじゃ先輩として病院の中を案内してあげる」

 「その前に君幾つなの?」
 駿が尋ねると愛は少し考えて答えた。
 「18歳。高校3年生だよ」
 「君は?」
 「17歳。高校2年生だよ」
 「そっか。やっぱ私の方が先輩だね!」
 「そうだね」
 「ちょっと、ついてきて!」
 「う、うん」
 
 そう言うと愛は慣れた手つきで病棟のエレベーターのボタンを押すと病院の1階に向かった。
 
 「ここが売店!」
 「もうすぐ色んな物が食べれなくなるから今のうちに好きなの食べとくと良いよ!」
 「駿は何が好き」
 「バナナジュースかな」
 「やっぱ、男子だね!」
 「愛は何が食べたいの?」
 「私はシュークリーム!甘いものに目がないんだ」
 「良いよ。買ってあげる!」
 「良いの?」
 「良いよ。色々教えてくれるお礼だよ」
 「ありがとう」愛は嬉しそうに笑った。
 
 「よし、合格!」
 「特別に今から私と友達になることを許します」
 「ありがとう」
 駿がそう答えると愛は少し考えて駿の手を引いた。
 
 「えーと、次にー」
 「ここが放射線科」
 「CTやらMRIやら今から君もたくさんお世話になる所だよ」
 「ちなみに音がうるさいのもあるから」
 「そうなの?」
 「うん」
 
 「よし、戻ろっか!」
 そう言ってエレベーターで6階に向かった。
 
 「最後にここからの眺めが私のおすすめなんだ!」「ここからの夕日がとても綺麗だよ!」
 「街並みに夕日が沈んで行くのがとても綺麗で切なくていいよ、、」
 「そうなんだね!」
 
 「あっ、そうだ!駿。シュークリームちょうだい!」
 「良いよ!」そう言うと駿はバナナジュースを取り、シュークリームを愛に手渡した。
 「やっぱり疲れてる時は甘いものに限るよね」
 そう言いながら愛はシュークリームを美味しそうに食べた。その横で駿もバナナジュースを飲んだ。
 「さっ。もうすぐ夕食だからいったん部屋に戻ろっか?」
 「愛はどの部屋なの?」
 「615の部屋だよ」
 「同じ6階の15号室。駿は603で同じ6階の3号室でしょ?」
 「うん。そうだよ」
 「よく知ってるね」
 「そりゃだって1週間先輩だから、、」
 そう言って愛は笑うと手を振りながら615の部屋に向かった。
 「それじゃ、また明日ね!」
 「明日から辛い治療が待ってると思うけどお互い頑張ろうね!」
愛はもう一度駿に微笑むと部屋へと帰って行った。駿も603の部屋へと向かった。
 
 ストーリー3
 
 駿は朝の6時に目が覚めた。
 起床時間は6時半だった。
 急に得体の知れない不安が駿を襲ってきた。
 
 「僕は本当に助かるのだろうか?」
 「手術は大丈夫だろうか、、」
 考えれば考えるほど怖くなった。
 
 起床時間になり、朝の薬を飲んだ。
 すると、担当看護師の佐々木さんが
 やってきた。
 
 「駿くん。おはよう! 昨日はよく眠れた?」
 ちょっと体温と血圧計らせてね。
 
 佐々木さんは、テキパキと仕事をこなしていた。
 
 20代中頃でキレイなお姉さんといった感じの雰囲気を持った人だった。
 
 「駿くん。血液検査があるから注射しても良いかな?」
 
 「はい。大丈夫です」
 「ちょっと痛いけどごめんね」
 
 佐々木さんは手早く慣れた手つきで注射をして血液を取った。
 
 「ごめんね。痛かったね。ちょっとここ押さえててね」

 「はい。分かりました」
 
 やがて朝食が運ばれてきて朝食を食べた。
 その後はひたすら何もすることがない時間が続いた。駿は目を閉じまたウトウトとしてきた。
 
 「駿。駿。駿!!」
 駿を呼ぶ声が聞こえた。
 駿が目を覚ますとそこには愛がいた。
 
 「まだ、寝てたの?」
 「違うよ。ウトウトしてたんだ」
 
 ふと、愛を見ると点滴が繋がれていた。
 「点滴してるの?」
 「うん」
 「大丈夫!私慣れてるから」
 そう言って笑うと愛は満面の笑みで笑った。
 
 「心配しなくていいよ。いつものことだから」
 「昨日はたまたま点滴外れてたんだ、、」
 「駿も今日から精密検査だね」
 「うん。先生が副腎以外も調べるって、、」
 「そっか。頑張ってね!」
 
 「それじゃ、私部屋に戻らないと行けないから、、また。」
 「また、、」
 そう言うと愛は自分の部屋に戻って行った。
 
 僕は副腎以外にがんの転移がないかを調べる検査を受けた。
 
 2週間ほど検査を受けた後、幸い他に転移がないことが分かった。
 
 両親が呼ばれ病状の説明がされた。
 幸い転移はなく左側副腎の切除手術を受けることになった。
 
 その間、愛は少しづつ痩せていった。
 僕も体重が落ちていった。
 
 そして、入院から2週間ついに手術日が12月17日に決まった。
 
 愛が病室にやってきた。
 「聞いたよ。手術日。明後日なんだってね」
 「うん」
 「怖い?」
 「怖いよ」
 「駿なら絶対大丈夫!」
 「頑張って!」
 「うん。頑張るよ」
 
 「駿。デイルームに行こう!」
 「うん」
 
その日は夕日が綺麗で燃えるように街並みに落ちていた。
 
 「駿!絶対元気になって帰ってきてよね」
 「うん」
 
 「駿は好きな人いないの?」
 愛は駿に聞いた。
 駿は少し考えてから答えた。
 
 「いるよ」
 
 愛は落胆の表情を浮かべた。
 「誰なの?」
 
 「えっとね。廊下でぶつかってもごめんねも言わずに行って、たまたま再会したら売店やら何やら病院内を案内してくれる人、、」
 
 愛の表情はみるみる明るくなった。
 
 「誰だろうね、、そんな人、、」
 「誰だろうねー」
 駿も愛も照れていた。
 
 「もう!この話はこれで終わり!」
 「駿ったら、冗談が過ぎるんだから、、」
 
 駿は急に真面目な顔になり続けた。
 「だから、その好きな人にも生き続けてもらいたいんだ、、」
 「これが今の僕の願いだよ」
 「どんなに辛くても頑張って治療して治って欲しい」
 「そして、この先の僕の人生の中にいて欲しい」
 「そんなの約束出来ないよ、、」
 「だから、絶対生きて欲しい、、」
 愛は涙ぐんでいた。
 
 「仕方ないなぁ。。後輩くんを一人にするのも忍びないからもうちょっとだけ付き合ってあげるか、、」
 愛は優しく微笑むと涙を拭いて駿を見た。
 
 「これからもよろしくね! 後輩くん!」
 駿も笑顔で手を伸ばした。
 「こちらこそ。よろしく!」
 いつの間にか日が落ちて外は真っ暗になっていた。
 
 
 ストーリー4
 
 それから駿は手術を受けた。
 数時間に及ぶ手術の末に駿の手術は無事に終わった。
 
 駿が麻酔から目を覚ますと担当看護師の佐々木さんがいた。
 
 「体調大丈夫? 悪くないかな?」
 「大丈夫です」
 「手術は無事終わったからもう心配しなくていいよ」
 「良かった。ありがとうございます」
 「僕、実は凄く怖かったんです」
 「誰でも怖いよ!」
 「よく頑張ったね!」
 「あと、2週間弱で退院できるよ」
 「本当ですか?」
 「うん。本当よ」
 「良かった、、」
 「でも、、」
 「どうしたの?」
 「いや、何でもないです」
 
 「愛ちゃんのこと?」
 「はい」
 「退院してもたまにはお見舞いに来てあげてね」
 「駿くん。退院したらきっと凄く寂しいと思うから、、」
 
 「もちろん。そのつもりです!」
 「サッカー部に戻れるように残り2週間、リハビリ頑張ってね!」
 「はい。佐々木さん。いろいろとありがとうございます」
 
 「困ったことがあったらいつでも相談してね」
 「はい。ありがとうございます」
 
 次の日、駿は愛の病室を訪ねた。
 また少し痩せた愛は駿に気づくと笑顔で手を振った。
 
 「駿!来てくれたんだー」
 「うん」
 「それより愛は体調大丈夫なの?」
 「全然平気!いつもの事だから、、」
 
 愛は今にも泣き出しそうな瞳で言った。
 「もうすぐ退院だってね!」
 「うん」
 「良かったね!」
 
 「だけど、、」
 「私のことなら心配しなくていいよ」
 「必ず良くなって駿に会いに行くから、、」
 「それより今日何の日か覚えてる?」
 「12月24日。クリスマスイブだよ」
 
 「病気の彼女に何かプレゼントはないの?」
 「ちょっと待ってて!」
 駿はそう言うと一旦部屋を出ていった。
 
 大急ぎで戻ってくると大きなビニール袋を持っていた。
 
 「これ何?」
 駿はニッコリ笑って「シュークリーム10個」と愛に言った。
 「こんなに買ってどうするの?バカ!」
 「あるだけ全部買ってきた」
 「これくらいしか何もしてあげられないから、、」
 「そっか。そっか。ありがとう」
 「気持ちだけ受け取っとくよ、、」
 
 「また、一緒に夕日見たいね、、」
 
 「退院しても会いに来てね!」
 「うん。毎日くるよ」
 「毎日は良いから1週間に1回は来てね!」
 「分かった。約束するよ」
 
 それから毎日毎日、駿はリハビリ、愛は治療に専念した。あっという間に駿の退院日になった。
 
 駿の病室に愛がやってきた。
 「駿。いよいよ退院だね!」
 「おめでとう!」
 「照れくさいけどあんたに手紙書いたから。はい!」
 「ありがとう」
 「それとこれ売店のバナナジュース。餞別だよ。
 「ありがとう。手紙とバナナジュースなんて愛らしいね!」
 「また会おうね」
 「うん。しょっちゅうお見舞いに来るから、、」
 「駿。一つだけ約束して欲しいんだ」
 「もし、私が居なくなっても力強く生きていって欲しいんだ。約束だよ」
 「私が居なくなっても駿は駿らしく生きていって欲しい、、そして、たまに私のことを思い出して欲しいんだ、、」
 「約束だよ、、」
 「愛らしくないけど、、分かったよ、、約束するよ」
 「それじゃ、、」
 「駿。退院おめでとう!」
 「愛、、またね」
 
 ストーリー5
 
 駿が退院して5日が過ぎた。
 新しい年が来て1月になっていた。この日駿は愛のお見舞いにやってきた。
 
 6階のナースステーションに行くとちょうど佐々木さんがいた。
 「駿くん! 愛ちゃんのお見舞いに来てくれたの?」「はい」
 
 駿が佐々木さんと話していると後ろから大声が聞こえた。
 「あーーー! 駿だーー!」
 見ると愛が満面の笑みを浮かべてやってきた。
 「約束どおり、来てくれたんだーーー!」
 「もちろん! 約束しただろ」
 「駿が来てくれたーー! 嬉しいな」
 「駿ーーー! 甘いもの食べたいよー」
 「シュークリーム買ってよ!」
 佐々木さんを見ると仕方ないな〜という表情だった。
 「良いよ。一緒に行こう!」
 
 僕と愛は1階の売店に向かった。
 「一つだけだよ」
 「ねぇ、駿覚えてる? 駿が入院した時、私が病院の中案内してあげたの」
 「もちろん覚えてるよ」
 
 「今度は逆になっちゃったね」
 「あった、シュークリーム!」
 「駿はバナナジュース?」
 「うん」
 「やっぱり!」
 
 「駿。病院の屋上に行こうか?」
 「とっておきの場所」
 「でも、空いてるの?」
 「毎週、この時間だけ開放してあるんだ」
 「そうなんだ。それなら良いよ」
 屋上に着くと愛は美味しそうにシュークリームを頬張り駿もバナナジュースを飲んだ。
 
 「私。あと何回、駿に会えるのかな、、」
 「愛らしくないよ」
 「何回だって何十回だって何百回だって会えるよ」
 「駿、、。」
 「どうしたの?」
 「びっくりしないで聞いて欲しいんだけど、、私の余命。あと2ヶ月なんだ、、」
 
 「何で? こんなに元気なのに余命なんて、信じないよ」
 「お医者様がね。もう助かる見込みがないんだって、、」
 「今から日に日に弱っていくみたいなんだ、、」
 「駿。怖いよ、、」
 「大丈夫! 僕がついてるから」
 「あのね。死ぬ前に駿の温もり感じたいからハグしよう」
 「良いよ」
 駿は優しく愛にハグをした。
 「駿、、怖い、、」
 愛は駿に抱きついた。
 駿も愛を強く抱きしめた。
 
 「駿、、お願いがあるんだ。駿を感じれる何かが欲しいんだ」
 駿と愛は2人で携帯で写真を撮って待ち受けにした。
 
 「辛くなったらこの待ち受け見て元気だしてね!」
 「うん。駿は優しいね!」
 「駿。目をつぶって」
 駿が目を閉じると愛は駿にキスをした。
 「駿。好きだよ」
 「僕も愛が好き」
 「愛が退院するまでずっとずっと待ってる」
 
 「怖くなったらいつでも電話して!」
 「うん。駿ありがとう」
 「また、来るね」
 「あのね。駿。会うのは今日が最後だよ」
 「これから弱っていく私を駿に見られたくないんだ、、」
 「そんなの気にしないよ」
 「ダメだよ。駿には元気だった頃の私を覚えておいて欲しいんだ」
 
 「また、来るよ」
 「愛が退院するまでずっとずっと来るよ」
 駿も涙ぐんでいた。
 
それから、5日後、駿が愛のお見舞いに行くと面会謝絶になっていた。
 
 愛の部屋を覗くと愛はたくさんのチューブに繋がれ、機械が繋がれていた。
 
 「愛、、」
 駿は涙をこらえて愛の部屋を後にした。
 
 「愛、さよなら、、」
 
 
 ストーリー6
 
 それから駿は愛のお見舞いに行けなくなってしまった。あの日を最後に駿は愛に会えなくなってしまった。季節は1月から2月になった。
 駿は思い切って再び愛に会いに大学病院を訪れた。病棟の6階に上がって佐々木さんを訪ねた。
 
 「佐々木さん! 愛は今どうなっているのですか?」
 看護師の佐々木さんは頭を振りうつむき涙ぐんだ。
 「ごめんね。駿くん。愛ちゃん。もってあと1ヶ月くらいだと思う」
 
 「そんな、、」
 駿は大粒の涙を流した。
 「これを愛に渡してあげてください」
 「指輪です。お願いします」
 「一生懸命バイトして買いました」
 「そう、、駿くんは優しいね」
 「愛ちゃんに直接渡してあげて」
 「はい」
 駿は615号室に入ってチューブと機械に繋がれ眠り続ける愛の枕元に指輪を置いた。
 「愛、、頑張ってね、、」
 そう言うと涙をこらえて部屋を出た。
 「ちゃんと渡せた?」
 「渡せました」
 「佐々木さん、ありがとうございます」
 
 「また来ます」
 「そう、、分かったわ」
 「愛ちゃんもその方が嬉しいと思う」
 「また、いつでもおいでね」
 
 それから1ヶ月後、愛は帰らぬ人となった。
 駿は佐々木さんに連絡をもらい、愛の家族の了承を得て特別に病室に入れてもらい意識のない愛にさよならをした。
 病室の中で目を閉じたまま美しい顔で亡くなった愛の指には駿がプレゼントした指輪がはめられていた。
 
 「愛ーーーさよならーーー!!」
 駿は病室で号泣した。
 
 それは愛の父と母も同じだった。
 3月8日に愛は帰らぬ人となった。
 それは駿と愛が出会ってわずか3ヶ月後のことだった。
 
 「愛、ありがとう。さよなら、、」
 「愛と約束したように例え愛が居なくなっても僕はこれから強く生きるよ」
 亡くなった愛はどこか微笑んでいるようにも思えた。
 
 愛の母親は涙を流しながら駿に手紙を渡した。
 「駿くん、、これ愛からのお手紙。受け取ってくれる、、」
 愛の母親が愛が書いた手紙を渡した。
 「ありがとうございます」
 「愛さんと出会えて僕は幸せでした」
 「そう。愛もきっと、あなたに出会えて幸せだったと思う。こちらこそありがとう」
 「元気でいてね、、」
 
 ストーリー7
 
 家に帰った駿は愛からの手紙を読んだ。
 
 「本間 駿 様
 
 この手紙を読んでいるそこの君。
 泣いてなんかいないでしょうね。
 君に初めて会ったのはまだほんの3ヶ月前だったね、、でも何故だか何年も一緒に過ごしたような気持ちになるんだ。
 
 自販機の前でぶつかった君が入院してきた時、本当は私嬉しかったんだ。
 
 君と私は一歳違いだけどどこか頼りない君が心配でしょうがなかったよ。
 
 私にシュークリームを買ってくれたり、私のために泣いてくれたり、君は最後まで優しかったね。
 
 もう、時効だから言うけど私は本当に君が大好きだったんだよ。
 
 君よりだいぶ早くこの世とお別れしなくちゃいけなくなったけど君と過ごした。数ヶ月間は私の中の宝物だよ。
 
 君はまだまだそっちの世界で頑張りなよ。
 
 これは最後の手紙だよ。
 もうすぐ君に会えなくなるけど、出会ってくれてありがとう。
 
 本当に大好きだった君に、、
 愛をこめて
 
 村岡愛」
 
 それから3ヶ月後ー
 雨が降り続く中
 駿は愛のお墓を訪ねた。
 
 愛のお墓の前で駿は立ちつくしていた。
 
 「愛、、久しぶり」
 「しばらく会えなかったね、、」
 「君が旅立って3ヶ月が過ぎたね、、」
 「君は僕の前からいなくなったけど僕は本当に君が大好きだったんだよ」
 
 「君が居てくれたから辛い入院生活にも耐えれたんだ」
 「今でも優しい笑顔の君が笑ってる」
 「気が強くて優しくて、でも本当はか弱くて泣き虫な君に出会えて僕は幸せだった、、」
 「君はいつも大きな愛で僕を包んでくれたね」
 「また、しばらくお別れだけど僕はいつでも君を想ってる、、」
 「これこらもずっと、、」
 「愛してるよ」
 「愛ありがとう」
 
 fin
 


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