桜吹雪が綺麗です。

あなたの助けに

 三木沢の力が緩んで、咄嗟にその腕から逃げ出した。
 それ以上どうすればいいのかわからないでいた千花の前に、背の高いひとが立った。

「俺の見間違いでなければ、抵抗していたし、困っているようにも見えた。何やってたんだ?」

 覚えのある声に、覚えのある後ろ姿。

「何って……」
「俺、打ち合わせ用にいつもボイスレコーダー持ち歩いているんですけど、さっきから電源入れてます。再生してみましょうか。恋人同士にしては変な会話だと思ったんだけど。……そこの会社のひとですよね?」

 最初はぶっきらぼうなため口だったが、微妙な敬語混じりになったのは、暗に「俺はお前が誰だかわかっている」というプレッシャーをかける意図かもしれない。

「べつに……、ちょっと飲もうかと」

 三木沢も相手が誰か、思い当たったのだろう。
 視線をさまよわせながら、苦しい言い逃れをする。
 そこに、まったく追撃の手を緩める気はなさそうな声がかけられた。

「先に交番にいきましょうか? 俺、今日駅から道に迷って通りすがりの交番に寄ったので、このすぐ近くなのはわかっているんです。行く気がないなら、ここから110番でも構いませんが。動かぬ証拠あるので。一応聞きますが、常習犯なんですか? だったら、社会的に死んでおいた方が良いんじゃないんですか」

「おまえ、何言ってんだよ! そんなわけねーだろっ。合意のある相手としか遊ばない」

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