店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
「オリバーは、ヒト族の国を見つけてどうするつもりだい?」
「コーヒーについて根掘り葉掘り聞きたいんだよね。コーヒーに関する歴史書なんかもあれば、見せてもらいたいし」

 この時、無意識なのだろうか。
 オリバーの手網を振っていない方の手が、首に下げたロケットをエプロンの上からぎゅっと握りしめていた。

「……」

 そのロケットの中身が何なのかを、ウィリアムは知っている。
 一年前──イヴを初めて一人でアンドルフ王国に残して旅立つ時、オリバーが彼にだけ包み隠さず全てを打ち明けて行ったからだ。
 ロケットには、小さな骨の欠片が入っている。
 イヴの母親の、小指の骨だ。
 オリバーはそれを彼女が故郷に残してきた大切な相手に返すために、ヒト族の国を探すのだ、とウィリアムに告げた。
 彼女がイヴを産んで亡くなる最期の瞬間、オリバーと父がそう約束したらしい。

「──で? こっちにもそろそろ動きがあるだろうと思って戻ってきたんだけど? 議会もようやく重い腰を上げて、メイソンのおっさんを切る気になったんだろ?」

 オリバーが、あからさまに話題を変えた。
 それに言及することなく、ウィリアムは一緒に今日の議会に出席していたマンチカン伯爵と顔を見合わせる。
 円卓を囲んで十六用意されていた席の中、この一年空いたままだったのは、オリバーの母方の実家であるメイソン公爵家の席だった。
 それは、本日付けで取り払われることが決定した席でもある。
 ちょうど一年前に起こったある事件を発端とし、メイソン公爵は王宮の正面玄関からの立ち入りを禁止された。
 正しくはフォルコ家への接近禁止なのだが、『カフェ・フォルコ』が王宮一階大階段脇にあるため、実質正面玄関立ち入り禁止である。
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