エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない

6 報い/B面

「おーい、可愛い甥っ子くん?」

 由依と入れ違いに入室してきた武雄を、壱成は綺麗な営業スマイルを浮かべて出迎えた。

「何でしょう、所長」
「何でしょう、じゃねーよ。わかってんだろ、小鳥遊愛衣が男どもから損害賠償を請求されてる件、由依ちゃんに伝えてねえな?」

 武雄は腕組みをし、閉めた扉の前に仁王立ちになる。話が終わるまで逃がさないという姿勢だった。

 壱成は黒いファイル——由依には決して触らせない——を開き、被告の名前を指で叩いた。そこには小鳥遊愛衣の名前が記されている。

「彼女はコーポレート部門の秘書です。民事案件は知る必要がありません。秘密保持義務もありますから、情報をわけるのは弁護士として当然では?」

 流れるように応じた壱成に、武雄がはんと鼻を鳴らす。

「なるほどねえ? 私利私欲のためじゃないってわけだ?」
「当然です。悪女に弄ばれたから、貢いだ分を取り返したいという相談に乗っているだけですよ」

 小鳥遊愛衣の悪行はただの浮気に留まらなかった。生活が苦しいやら親が病気やらと嘘をついて、稔以外の男性から金銭をせしめていたのだ。

 いわゆる結婚詐欺である。

 被害者の一人から相談が持ち込まれたとき、壱成は一も二もなく手を挙げた。由依をあれほど傷つけた人間を許すつもりは決してない。地獄の果てまで追い詰めて報いを受けてもらう。

 武雄はやれやれと肩をすくめ、扉の前から退いた。

「ま、ようやく結ばれたんだ。あの子を大切にしろよ」
「世界で一番幸せにしますよ」

 ファイルを鍵付きの抽斗にしまい、執務室を後にする。廊下の先を歩いていた由依がこちらを振り向いた。はにかんで小さく手を振る姿に、心臓が締めつけられる。

 愛おしいその笑顔を必ず守り抜こうと、壱成は固く誓った。

 〈了〉
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