その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

65 リドックとティアナ【ラッセル視点】


「しかし驚いたなぁ、まさかリドックが後継者になるなんてなぁ」

同僚のディノが軽い調子でつぶやいたのを耳にしたのは、その日の夕方だった。
明日の殿下の予定を殿下付きの護衛騎士達と打ち合わせていた際に、本当に何気なく彼が発した言葉を、俺は聞き逃さなかった。

彼は1年ほど前に殿下付きの騎士となった。確か伯爵家の次男だったはずだから、同じ次男の立場で年齢も同じ頃だろうか。リドックの事を知っていそうな口ぶりだ。

「知っているのか?」

問うてみれば、ディノは「えぇ、まぁ……」と何気なく頷いて、何かに思い至ったように「あぁ!」と俺が問うてきた意味に気づいたように目を見開いた。

俺と……正確には俺の妻とリドックの家であるスペンス家の関係に思い至ったのだろう。
今や王都の貴族では知らぬ者の方が少ない。


「王立学院の同級生です。と言ってもたまたまクラスが2年連続で同じだったくらいですけど」

あまり親しくは無かったのだろうか。それほど多くの情報は持っていなさそうな様子ではあるものの、調べさせている情報以外にも何か話が聞けるかもしれない。あまり期待せずに、少し彼から話を聞こうか、そう思っていた矢先に、ディノの方から……

「あぁ、でも彼のことならティアナの方が知っていますよね!」

と、さも当然のような言い方で話を切り出された。

「妻が?」
思いもしなかった言葉に眉間に皺を刻みつけながら聞けば、ディノは不思議そうに首を傾けた。

「あれ? ご存知ありません? 彼女も王立学院の同級生ですよ? しかも僕らの学年の成績トップはいつもあの2人でしたからお互いいいライバルだったんじゃないですかね? あの頃は義理の姉弟になる予定でしたし、仲は良かったですよ?」

「そう、なのか?」

意外な答えに、驚いて問い返せば、ディノは途端に「しまった!」と言うような顔になり

「いや、まぁでも友達ですよ! 単なる!」

と弁明をはじめる。
その言い方では、夫である俺の耳には入れない方がいいような事があると含んでいるようなものだ。

「当時はもう、兄の方と婚約していたし、お互い弁えていたでしょうし」

ゴニョゴニョと顔を引き攣らせながら弁明するようにそう言ったディノは最後に

「まぁ、でも、学生の時の話ですから!」

と苦し紛れに曖昧なフォローをして、慌てた様に仕事に戻って行ったのだ。

その背中を目で追いながら、俺は先程リドック・ロドレルから感じた違和感が、なんらかの意味のあるものだったのだと、認識をした。
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