その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

67 すれ違い 【ラッセル視点】


数日後のティアナとの観劇鑑賞は、素晴らしい時間となった。

帰宅の馬車でリドックについて触れようかと思いながら、しかし酒の入ってウトウトしている彼女を思い、問いかけるのをやめた。

とろとろとまどろむ彼女を抱き上げて寝室に連れて行き、そのまま朝まで甘い時を過ごしたのは、連日激務に耐えてきた自分への褒美となった。

これで後少し、忙しさのピークを抜けるまでなんとか精神力を持たせることができるだろう。

そう思った矢先、ある報告が俺の手に舞い込んできた。

それは観劇の翌々日の夜。ティアナにつけていた護衛の記録にサラリと目を通している時だ。

あの観劇の夜、ティアナとリドックが劇場で接触しているというのだ。

正確にはティアナが声をかけてきた男に「リドック」と呼びかけ、警戒した護衛達に対して「害はないから下がるように」と指示を出したので、そのままそれを見守ったという内容だ。

簡単に書かれている男の風貌は、リドックの特徴から外れていない。
おそらくリドック・ロドレルだったのだろう。

2人は友人のように会話を交わした後、男性の連れの女性の登場をきっかけに、軽く挨拶をして別れたという……それがあの観劇の幕間の出来事。

そのあとすぐにティアナは席に戻ってきて俺の隣に座ったはずだ。握った手や引き寄せた腰……いつもの変わらない彼女だったように思う。

彼女にとってリドックとの再会はどのようなものだったのだろうか?

久しぶりの友人とたまたま再会しただけだ。わざわざ夫に報告するまでもないと言うことなのだろうか?

そうであるならば、やはりリドック・ロドレルはさほど心配するような人物でもないのかも知れない。

先日自分が感じた事は杞憂にすぎないのならいい。

そう思うのに、何かが引っかかるのは、彼があのグランドリーの弟だからだろうか? それともディノのあの言葉がどうにも引っかかっているからなのだろうか?


結局、色々と悩んだ後に、俺はしばらくリドックの行動を調べさせる事にした。

これで何もなく、本当にただ急に侯爵家の跡取りにされた無害な青年であるのならそれはそれで安心材料となるからだ。

数日後には、殿下の遠方視察の共の任で留守にしなければならない。
丁度その時期に調査をするよう命じておけば、万一ティアナに危害を加えようとしてもすぐに対応できるだろう。


そう決めて寝室に向かえば、今日もやはりティアナはすでに眠ってしまっていて、その横にするりと入り込むと、優しく甘い香りと温もりを感じる。

眠ってしまっていなければ、リドック・ロドレルと再会した事を自分に話さなかった彼女の意図を聞けたかも知れないのが少し残念ではあったが、仕方がない。

明日、無理なら明後日、ゆっくり顔を合わせる事が出来たら聞いてみよう。

その時は悠長にそんな事を思っていた。

結局、留守にするその日の朝まで彼女とはまともに話すことすら出来なかったのだ。
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