あなたに夢中

推しに夢中

雲ひとつない青空が高く感じるようになった、十月中旬。
パソコンに向かって入力作業をしていても、あることが気になって集中できない。
ドキドキと音を立てる心臓に手をあてて心を落ち着かせていると、オフィスの壁かけ時計のすべての針が十二の数字を指した。
正午になると同時にデスクの引き出しからスマホとお財布が入ったバッグを取り出し、イスから立ち上がって足早に歩を進める。

「なんかすごい勢いだけど、そんなにお腹空いていたのかな?」
「堀田さんって仕事はできるけど地味で暗いし、なに考えているかよくわからないよね」

職場の同僚である坂本(さかもと)さんと、藤井(ふじい)さんの会話が耳に届く。けれど、彼女たちの嫌味など少しも気にならない。
伸びたままの髪をひとつに束ねて黒縁メガネをかけ、最低限のメイクしかしない自分は地味だと自覚しているし、人と話をするのが苦手なのは紛れもない事実だから。

国内大手不動産会社『ワタナベホーム株式会社』本社の総務部で働く私、堀田佳乃(ほったよしの)は入社三年目の二十五歳。
同僚との関係は微妙だけど、仕事にはやりがいを感じているし、プライベートも充実していて毎日が楽しい。
心ない発言をする同僚には目もくれず、急いでオフィスを後にして通路の片隅で足を止める。
どうか、当選していますように……。
瞼を閉じて両手を合わせ、呼吸を整える。そしてバッグからスマホを取り出し、震える指で通知をタップした。

【厳正なる抽選を行った結果、ご当選されましたのでお知らせいたします】

待ち望んでいたメッセージを見て、その場で小さく飛び跳ねる。
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