あなたに夢中
「とりあえずビールかな」
「了解です。すみません」

渡辺君は店員を呼ぶと、飲み物と料理のオーダーを手早く済ませる。
ほどなくして運ばれてきたビールで乾杯をして、生ハムのサラダを取り分ける。

「佳乃さん。クリスマスイブなんですけど、イルミネーションを見に横浜のみなとみらいに行きませんか?」

まるでデートの誘いのような言葉に意表を突かれ、サラダを口に運んでいた手が止まった。
あと十日ほどで、クリスマスイブを迎える。
今年の二十四日は土曜日で仕事は休み。次の日は日曜日だから帰り時間を気にせずに、ゆっくりできるはず。
渡辺君と一緒にクリスマスイブにイルミネーションを見に行けたらとても楽しいと思うけれど、その日は待ちに待ったCosmo7のライブがある。

「ごめんなさい。二十四日は予定があるの」

誘いを断った私の前で、渡辺君は眉根を寄せる。

「もしかしてデートですか?」
「まさかっ!」

友だちすらいないのに、デートする相手などいるはずもない。
どうしてそんなことを気にするのかわからず、困惑しながら彼を見つめる。

「確認なんですけど、佳乃さんって付き合っている人いないですよね?」
「……はい。いません」
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