王子様だけど王子様じゃない

変身と返信


 私は足早に副社長室の前までやってくると、呼吸を整えて重厚な扉をノックした。


「どうぞ」


 未だにうるさく鳴り続ける心臓を無視して、ゆっくりと、控えめにドアを開けて身体滑り込ませる。


「失礼します」


 斜め三十度くらいのお辞儀をすませ、副社長が待つ執務机へさっさと近づく。嫌なことは早々に終わらせるに限る。

 私のそんな心理状態など知らないこの男前は、嫌味なくらい眩しい笑顔を作って立ち上がった。


「よく来てくれたね」

「約束ですから」


 そう。須藤さんから助けてもらったときに、彼からその対価として、ある“約束”を取り付けられたのだ。ちなみにこの約束も契約内のこととして処理される。


「まさかとは思うけど、久留くんから連絡は来たりしてないよね?」

「一切ありません、ご心配なく」


 私は口の端を持ち上げてみせ、「何かできるような状況ではないでしょう」と、暗に彼の過保護ぶりを指摘した。


「それよりも、全部すませてしまいましょう」


 私が話題を変えれば、副社長はあと一歩分の距離まで近寄ってきた。頭から爪先まで私の全身を眺めると、彼は目を細め、口を開く。


「それじゃ、全部脱いでもらおうか」
< 41 / 71 >

この作品をシェア

pagetop