オタクな生徒が俺を「柊弥たそ」と呼び、讃え崇めてきます。

クセの強い2人を引き連れて、文芸部の部室を目指す。
2人は道中もクックックと笑いながら盛り上がっていた。

「しかし、小夏殿。柊弥たそが文芸部の顧問だとは…あまりにも尊い展開だな」
「それな、尊すぎて召されるでござる。最推しが常に同じ空間にいるなんて、こんなの柊弥たそにリアコしてしまうでござるよ」
「小夏殿はもうしているではないか。永遠に柊弥たその女なんだろ?」
「当たり前でござる。最早、柊弥たそしか勝たん。男は柊弥たそ一択だ」

本当に何を言っているのか分からないけれど。
なんとなく、背筋がゾゾっとした。

俺、国語教師なのに。
こんなにも知らない言葉が飛び交うことに違和感を覚える。


「あの、さ。2人とも。一応教師として忠告しておくけれど、学校内では普通に喋った方が良いよ。やっぱり、学校って公共の場だから。君ら2人が会話する時はそれでも良いけれど、他の人と会話する時は普通に。ね?」
「…普通」
「普通…かぁ」


…何で首を傾げているの。
まさか、普通を知らないのか…?

2人は首を傾げたまま、鞄から眼鏡ケースを取り出した。
そして眼鏡を掛ける。


「………これで良いですか」
「え?」
「これで良いですかって、聞いているのです」
「……」

眼鏡を掛けた2人は、さっきまでとは態度が一変し、顔つきも変わった。
ニヤニヤしていたその顔は、真顔になっている。

「え、二重人格?」
「違いますよ。眼鏡でオンオフの切り替えをしているだけです。ね、凛々子」
「そうそう。…で、貴方の名前…忘れましたけれど。流石に私たちも弁えています」
「ただ、貴方があまりにも似ていたから」
「つい、そのままのノリで行ってしまっただけです」
「………」


本当に、こんな人がいるのか…。
初対面なのに。急にこの2人が恐ろしく感じ始めた。


「満足しましたか?」


そう言って2人は眼鏡を元に戻し、ドゥフッ!と声を上げる。

「さてさて、柊弥たそ!! 目的地まであとどのくらいでござるか?」
「小生、早く現場に行って、執筆する前に最近出会った推しを早く愛でたいんだが!」
「お、凛々子殿。それはもしや、『スイート学園』の如月(きさらぎ)たそ、でござるか!?」
「ご名答!!! あの厚い胸筋に惚れてしまったぜ…。いやぁ、小夏殿の柊弥たそのように、 如月たそも目の前に現れて欲しいのだが…」
「クックック! これまでどれだけの徳を積んだか、(おのれ)()うてみるでござる!」


怖い。
怖い、怖い。

この2人、本当に怖い。

え、2人とも文芸部に入るの?
本当に?

え、待って。
というか、俺の前でも切り替えをしてくれないかな?

何も弁えていないよね。
それ……。



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