氷の王子様は子守り男子

星side 気づいた気持ち

 どうも俺は、女にモテるらしい。
 なんて言ったら、自慢かよと怒られるかもしれないが、それを嬉しいと思ったことは一度もない。
 興味も無いやつに絡まれるのも、俺が原因で女子同士がケンカするのも、正直うんざりしていた。

 特に後者。
 ケンカしてる奴ら全員興味ねえし、なんなら名前も知らないやつだっている。そんなやつらの争いに、俺を巻き込むな!
 ずっと、そんな風に思ってた。

 けど、坂部が体育倉庫に閉じ込められたのを見つけた時は、こんなことしたやつを許せないって思った。
 朝登校して、坂部の姿がなかった時は、何かあったのかと心配になった。
 もしも何かあったなら、絶対に守らないとって思った。
 だから、坂部を守れるなら、少しくらいうるさい噂が流れてもいいと思った。
 ただし……

「星、それに坂部さん。聞いたよ。二人とも、付き合ってるんだってな──痛っ!」

 昼休み。
 周りに誰もいない校舎の一角で、ヘラヘラと笑いながら俺と坂部にそんなことを言ってきた俊介。その頭を、軽く小突く。
 俊介は大げさに頭を押さえて痛がったが、もちろん手加減はしたからな。

「大森くん、違うの。それは嘘って言うかなんて言うか……」
「わざわざ説明しなくても、本当はだいたいわかってるだろ」

 なにしろ、さっきこいつは、全く同じ嘘を言ってたんだからな。

「お前が草野たちに変な嘘ついたから、否定できなかったんだよ。つまり、お前が全ての元凶だ」
「わあ、酷い。けど星だって、草野さんたちに嘘ついた時点で、これからもつき続ける覚悟はあったんじゃないの?」
「それはまあ、そうだけどな……」

 素直に認めるのは癪だが、その点はこいつの言う通りだ。
 一度坂部を守るって決めた以上、中途半端に投げ出す気は無い。

「けど今さらだが、坂部はこんな噂が流れて大丈夫か?」
「えっ、私?」
「ああ。その……例えばだけど、お前、好きなやつっているか? もしいたなら、こんな噂が流れたらまずいだろ」

 草野たちの前や教室で付き合ってると宣言した時は、そこまで考えが回らなかった。
 けど、どうなんだ?

「だ、大丈夫だから! 好きな人なんていないし、予定もないから!」
「そ、そうか」

 なぜか、ものすごい勢いで否定する坂部。
 よかった。
 他に好きなやつがいるのに、俺と付き合ってるなんて噂が流れたら大変だからな。
 だけど、なんだろう。
 本当は、そんな坂部の都合みたいなものじゃなくて、もっと別の理由でホッとしたような気がした。

 なんてな。
 いい加減、自覚するべきだよな。
 ここまで坂部を気にする理由なんて、ひとつしかないってことを。
 自分の気持ちに気づいたその時、胸の奥から、熱いものが込み上げてくるような気がした。
< 22 / 34 >

この作品をシェア

pagetop