氷の王子様は子守り男子
迎えに行くのが遅れちゃう!
実行委員の仕事は、その日から始まる。
放課後、全部のクラスの実行委員が集まり顔合わせがあるんだけど、私も吉野くんもそれに出て、説明を受けていた。
「以上が大きな流れになります。詳細が書かれたプリントがあるので、今日はそれをまとめたしおりを作ってください」
担当の先生はそう言うと、束になったプリントをいくつも持ってきた。
しおりは実行委員以外の生徒も使うから、たくさん必要になるんだって。
先生からは、担当する分を作り終えたら、勝手に帰っていいって言われたけど、これは長くなるかも。
吉野くんも、面倒くさそうにため息をついていた。
「災難だよね」
「まったくだ。こんなことになるなんてな。さっさと終わらせるぞ」
そうして、しおり作りに取り掛かる。
私と吉野くんはうちのクラスに配る分を手分けして作っていたけど、その間会話はほとんどなかった。
私語は禁止じゃないし、お喋りしながらやってる子もいるけど、私と吉野くんじゃ話す話題もないからね。
日向ちゃんの話題ならあるかもしれないけど、保育園でのこと、人には言わないでって言ってたから、ここでその話をするのはやめた方がいいよね。
あっ、でもちょっと待って。
「ねえ、吉野くん」
他の人には聞こえないくらいの、小さな声で話しかける。
「日向ちゃんのお迎え、毎日行ってるんだよね。大丈夫なの?」
保育園には、だいたいこのくらいの時間までには迎えに来てくださいって決まりがある。
もしも作業が長引いて終わるのが遅れたら、間に合わなくなるかもしれない。
「だから、さっさと終わらせるって言っただろ。明日からは、先生に事情を話して、あまり遅くまでは残れないって伝えるつもりだ」
それじゃ、私も急がないと。
そうして私たちは、より急いで作業を続ける。
ってできたらよかったんだけど、そうはならなかったの。
「ねえ吉野くん、どうすればいいかわからないんだけど、教えてくれる?」
そう言ってきたのは、隣のクラスの木村さん。
途中から、やり方がよくわからないって、やたらと吉野くんに聞いてくるようになったの。
「またかよ。さっきも同じこと聞いたよな」
「だって難しいんだもん」
「だいたい、聞くなら同じクラスのやつに聞けばいいだろ」
「吉野くんの説明、わかりやすいから」
わかりやすいなら、一度で覚えられるんじゃないかな? そもそも何度も聞くような難しいものじゃない。多分、木村さんは吉野くんとお喋りしたいだけだと思う。
吉野くんは不機嫌そうな顔で塩対応するけど、それでも木村さんは何度も話しかけてくる。
木村さん、それでいいの?
こんなんじゃ作業だってうまく進まない。
終わって帰る人たちも出てくる中、私たちの作業はまだまだ残ってた。
時計を見ると、そろそろ日向ちゃんのお迎えに行かなきゃ、間に合わなくなりそう。
「お前、いい加減にしろよ。俺、急いでるんだけど」
「ごめんごめん。私のが終わったら、吉野くんの分も手伝うからさ」
「お前の方が残ってるだろ。少しは真面目にやれ」
吉野くんは苛立ちながら、時計をチラチラ見る。やっぱり、日向ちゃんのお迎えの時間、気にしてるんだよね。
けどこのままじゃ、どんなに急いだって間に合いそうにない。
「あ、あの、吉野くん!」
吉野くんと木村さんの言い合いをストップをかけるように、声をあげる。
木村さんは少し怒ったように私を見るけど、そんな場合じゃない。
「えっと……吉野くん、用事があるんだよね。残りは私がやるから、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
「けど、まだけっこう残ってるぞ」
吉野くんの言う通り、残りはまだまだあって、これを私一人でやるのは大変そう。
けど終わるまで残ってたら、きっと間に合わなくなる。
「これくらい大丈夫だって。」
「けどよ……」
今すぐ帰った方がいいってこと、吉野くんだってきっとわかってる。
残りを私一人にやらせるのには抵抗があるみたいだけど、このまま言い合ってたら、それこそ時間がかかっちゃうよ。
「日向ちゃん、待たせちゃかわいそうだよ」
「────っ!」
小さい声で日向ちゃんの名前を出すと、吉野くんはわかりやすいくらいに反応する。
「いつまでも吉野くんがやってこずに、他の子が帰った後一人で待つことになったら、すごく心細いんじゃないかな?」
「くっ……」
寂しがる日向ちゃんを想像したのか、吉野くんの顔がくしゃりと歪む。
私だって、そんなことになったら悲しいよ。
「ほら、早く」
「本当にいいのか?」
「うん。任せてよ」
「────悪い。それに、ありがとな」
吉野くんは少しだけ躊躇ったけど、頷くと、急いで帰り支度を始める。
今から保育園に行けば、ギリギリ間に合いそう。
そして出ていく直前、木村さんに言う。
「作業が遅れたのは、お前のせいだからな。責任とって、坂部の手伝いしろよ」
「えっ!?」
とたんに慌てる木村さん。
吉野くんの手伝いならともかく、私のなんてやりたくないみたい。
けど吉野くんの言う通り、作業が遅れたのは木村さんが原因なんだから、それくらいいいよね。
◆◇◆◇◆◇
「終わったー」
しおり作りが終わって、帰り道。
あの後木村さんはグチグチ言いながらも手伝ってくれたけど、けっこう時間がかかっちゃった。
「吉野くん。日向ちゃんのお迎え、間に合ったかな?」
あのタイミングで帰ったなら大丈夫だと思うけど、どうかな?
吉野くんの連絡先はこの前交換してあるから、聞いてみよう。
そう思ってスマホを取り出すと、既に吉野くんからのメッセージが入ってた。
【日向の迎え、ちゃんと間に合った。坂部のおかげだ。ありがとな】
よかった。
こんな風にお礼を言われると照れくさいけど、作業の疲れが、一気に吹き飛んだ気がした。
「返事、しようかな」
そう思ったところで、ふと気づく。メッセージに、まだ続きがあることに。
なんだろう? 画面をスライドさせて、続きを読む。すると────
「ふぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
それを見た瞬間、私は驚きの声をあげたのだった。
放課後、全部のクラスの実行委員が集まり顔合わせがあるんだけど、私も吉野くんもそれに出て、説明を受けていた。
「以上が大きな流れになります。詳細が書かれたプリントがあるので、今日はそれをまとめたしおりを作ってください」
担当の先生はそう言うと、束になったプリントをいくつも持ってきた。
しおりは実行委員以外の生徒も使うから、たくさん必要になるんだって。
先生からは、担当する分を作り終えたら、勝手に帰っていいって言われたけど、これは長くなるかも。
吉野くんも、面倒くさそうにため息をついていた。
「災難だよね」
「まったくだ。こんなことになるなんてな。さっさと終わらせるぞ」
そうして、しおり作りに取り掛かる。
私と吉野くんはうちのクラスに配る分を手分けして作っていたけど、その間会話はほとんどなかった。
私語は禁止じゃないし、お喋りしながらやってる子もいるけど、私と吉野くんじゃ話す話題もないからね。
日向ちゃんの話題ならあるかもしれないけど、保育園でのこと、人には言わないでって言ってたから、ここでその話をするのはやめた方がいいよね。
あっ、でもちょっと待って。
「ねえ、吉野くん」
他の人には聞こえないくらいの、小さな声で話しかける。
「日向ちゃんのお迎え、毎日行ってるんだよね。大丈夫なの?」
保育園には、だいたいこのくらいの時間までには迎えに来てくださいって決まりがある。
もしも作業が長引いて終わるのが遅れたら、間に合わなくなるかもしれない。
「だから、さっさと終わらせるって言っただろ。明日からは、先生に事情を話して、あまり遅くまでは残れないって伝えるつもりだ」
それじゃ、私も急がないと。
そうして私たちは、より急いで作業を続ける。
ってできたらよかったんだけど、そうはならなかったの。
「ねえ吉野くん、どうすればいいかわからないんだけど、教えてくれる?」
そう言ってきたのは、隣のクラスの木村さん。
途中から、やり方がよくわからないって、やたらと吉野くんに聞いてくるようになったの。
「またかよ。さっきも同じこと聞いたよな」
「だって難しいんだもん」
「だいたい、聞くなら同じクラスのやつに聞けばいいだろ」
「吉野くんの説明、わかりやすいから」
わかりやすいなら、一度で覚えられるんじゃないかな? そもそも何度も聞くような難しいものじゃない。多分、木村さんは吉野くんとお喋りしたいだけだと思う。
吉野くんは不機嫌そうな顔で塩対応するけど、それでも木村さんは何度も話しかけてくる。
木村さん、それでいいの?
こんなんじゃ作業だってうまく進まない。
終わって帰る人たちも出てくる中、私たちの作業はまだまだ残ってた。
時計を見ると、そろそろ日向ちゃんのお迎えに行かなきゃ、間に合わなくなりそう。
「お前、いい加減にしろよ。俺、急いでるんだけど」
「ごめんごめん。私のが終わったら、吉野くんの分も手伝うからさ」
「お前の方が残ってるだろ。少しは真面目にやれ」
吉野くんは苛立ちながら、時計をチラチラ見る。やっぱり、日向ちゃんのお迎えの時間、気にしてるんだよね。
けどこのままじゃ、どんなに急いだって間に合いそうにない。
「あ、あの、吉野くん!」
吉野くんと木村さんの言い合いをストップをかけるように、声をあげる。
木村さんは少し怒ったように私を見るけど、そんな場合じゃない。
「えっと……吉野くん、用事があるんだよね。残りは私がやるから、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
「けど、まだけっこう残ってるぞ」
吉野くんの言う通り、残りはまだまだあって、これを私一人でやるのは大変そう。
けど終わるまで残ってたら、きっと間に合わなくなる。
「これくらい大丈夫だって。」
「けどよ……」
今すぐ帰った方がいいってこと、吉野くんだってきっとわかってる。
残りを私一人にやらせるのには抵抗があるみたいだけど、このまま言い合ってたら、それこそ時間がかかっちゃうよ。
「日向ちゃん、待たせちゃかわいそうだよ」
「────っ!」
小さい声で日向ちゃんの名前を出すと、吉野くんはわかりやすいくらいに反応する。
「いつまでも吉野くんがやってこずに、他の子が帰った後一人で待つことになったら、すごく心細いんじゃないかな?」
「くっ……」
寂しがる日向ちゃんを想像したのか、吉野くんの顔がくしゃりと歪む。
私だって、そんなことになったら悲しいよ。
「ほら、早く」
「本当にいいのか?」
「うん。任せてよ」
「────悪い。それに、ありがとな」
吉野くんは少しだけ躊躇ったけど、頷くと、急いで帰り支度を始める。
今から保育園に行けば、ギリギリ間に合いそう。
そして出ていく直前、木村さんに言う。
「作業が遅れたのは、お前のせいだからな。責任とって、坂部の手伝いしろよ」
「えっ!?」
とたんに慌てる木村さん。
吉野くんの手伝いならともかく、私のなんてやりたくないみたい。
けど吉野くんの言う通り、作業が遅れたのは木村さんが原因なんだから、それくらいいいよね。
◆◇◆◇◆◇
「終わったー」
しおり作りが終わって、帰り道。
あの後木村さんはグチグチ言いながらも手伝ってくれたけど、けっこう時間がかかっちゃった。
「吉野くん。日向ちゃんのお迎え、間に合ったかな?」
あのタイミングで帰ったなら大丈夫だと思うけど、どうかな?
吉野くんの連絡先はこの前交換してあるから、聞いてみよう。
そう思ってスマホを取り出すと、既に吉野くんからのメッセージが入ってた。
【日向の迎え、ちゃんと間に合った。坂部のおかげだ。ありがとな】
よかった。
こんな風にお礼を言われると照れくさいけど、作業の疲れが、一気に吹き飛んだ気がした。
「返事、しようかな」
そう思ったところで、ふと気づく。メッセージに、まだ続きがあることに。
なんだろう? 画面をスライドさせて、続きを読む。すると────
「ふぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
それを見た瞬間、私は驚きの声をあげたのだった。