古本屋の魔女と 孤独の王子様

つかの間の帰郷 日向side

5年振りに実家に帰る。
それも自分の意思ではなく、昨日あったばかりの男の為成り行きで…。
昔から推しに弱い自分が嫌いだ。NOと言えない小心者で他人に流されやすい。強いと思われがちだが、ただの弱虫の強がりだ。

莉子は朝早く迎えに来た車に乗り、国内線の飛行場へと向かう。
「朝早くから大変ですね。お世話になります。私、白建コーポレーションで副社長付きの運転手をしております、前田と申します。お帰りもお迎えに上がりますので、よろしくお願い致します。」
白髪混じりの男性は見た目年齢は50代くらいだ。

「こちらこそ朝早くありがとうございます。
社員でも無いのに申し訳ないです…。なぜ私がこんな豪華な車に乗せてもらっているのか…不思議ですね。」
そう答えると、運転手の前田は豪快にハハハッと笑って、
「世の中には偶然と言う必然があるんですよ。
貴方が副社長の救世主になれる事を祈ってます。私は彼の応援団ですから、どうかよろしくお願いします。」

「お力になれれば良いのですが…。ここまでお金をかけて頂いて…もしお探しの本が無かったらと思うと…怖いです。」
日向がそう言うと、

「大丈夫です。もし、見つからなくても気になさらないで下さい。副社長は決して理不尽に怒る事はありませんから。」
前田さんの笑顔で少しホッとした。

国内線のチェックインカウンターまで前田さんが着いて来てくれて、行ってらっしゃいませと手を振って見送ってくれた。

ほんのひと時会っただけの人なのに、なぜだか懐かしい感じがして心許してしまっていた。
不思議な人だ…。
コミュ症で対人恐怖症の日向がこんなに短い時間で、心許せる人なんて今まで数えるほどしかいない。
< 13 / 35 >

この作品をシェア

pagetop