古本屋の魔女と 孤独の王子様
次の日、夕方が近付くにつれ心なしか浮ついている自分を自覚しながら、李月は黙々と仕事をこなす。
副社長と言う立場は非常に曖昧なもので、決算前の書類や提案書に目を通すものの、最終決定は社長にある為なんら効力は無い。
言わばお飾りなだけなのだと李月本人も理解している。
仕事にやりがいは見出せないが、社員としての連帯感は感じている。慕ってくれる部下もいれば、協力してくれる上司も増えた。
ただ、本当に事務作業はつまらないものだ。
出来れば図面を引いて、建築設計に携わっていたいと言うのが李月の本音だった。
入社一年目は設計部に所属してそれなりのやりがいを感じていた。だが今は、事務処理や現場チェック、挨拶周りに接待と、忙しい毎日をただ淡々とこなしているだけだ。
そのせいで、彼女に会うのが待ち遠しいんだと、自分自身を自己分析して納得させる。
18時15分前、時間通りに運転手の前田から出発連絡が入る。
「今、行きます。」
李月は返事を返しそそくさと机を片付ける。
そこに、
トントントン
とドアを叩く音がする。
「はい…。」
このタイミングで誰だ?と苛立ちを隠しながら返事をする。
「失礼します。」
入って来たのは秘書の酒井だった。
「今から例の図書館員に会いに行かれるんですよね。私もご一緒した方が良いかと思いまして、お顔ご存じ無いですよね。」
「前田さんが一緒なので大丈夫です。今日はこの後特に予定は入ってませんよね?たまには定時で上がりたいと思います。」
李月はそう言って、そそくさと背広を着てカバンを持ち、帰り支度をして退出を促す。
この酒井と言う男、仕事は出来るがやたらと詮索して来るところがあるから、実は父の密偵なのではないかと疑っている。
あの写真を見た時、明らかに動揺してしまったから何か勘付かれた筈だ。
用心に越した事はないと李月は思い、1人で図書館に行く事にした。
誰も信用出来ない。
いつ誰に揚げ足を取られるかなんて分からない。だからいつだって注意深く行動するべきだと、社会人になってからより用心深くなった。
真の友と呼べる心許せる人間はいない。
誰にだって上べだけの関係で、誰にも心開く事は無い。そうやって今までずっと孤独で生きてきたから、警戒心は人一倍強い。
副社長と言う立場は非常に曖昧なもので、決算前の書類や提案書に目を通すものの、最終決定は社長にある為なんら効力は無い。
言わばお飾りなだけなのだと李月本人も理解している。
仕事にやりがいは見出せないが、社員としての連帯感は感じている。慕ってくれる部下もいれば、協力してくれる上司も増えた。
ただ、本当に事務作業はつまらないものだ。
出来れば図面を引いて、建築設計に携わっていたいと言うのが李月の本音だった。
入社一年目は設計部に所属してそれなりのやりがいを感じていた。だが今は、事務処理や現場チェック、挨拶周りに接待と、忙しい毎日をただ淡々とこなしているだけだ。
そのせいで、彼女に会うのが待ち遠しいんだと、自分自身を自己分析して納得させる。
18時15分前、時間通りに運転手の前田から出発連絡が入る。
「今、行きます。」
李月は返事を返しそそくさと机を片付ける。
そこに、
トントントン
とドアを叩く音がする。
「はい…。」
このタイミングで誰だ?と苛立ちを隠しながら返事をする。
「失礼します。」
入って来たのは秘書の酒井だった。
「今から例の図書館員に会いに行かれるんですよね。私もご一緒した方が良いかと思いまして、お顔ご存じ無いですよね。」
「前田さんが一緒なので大丈夫です。今日はこの後特に予定は入ってませんよね?たまには定時で上がりたいと思います。」
李月はそう言って、そそくさと背広を着てカバンを持ち、帰り支度をして退出を促す。
この酒井と言う男、仕事は出来るがやたらと詮索して来るところがあるから、実は父の密偵なのではないかと疑っている。
あの写真を見た時、明らかに動揺してしまったから何か勘付かれた筈だ。
用心に越した事はないと李月は思い、1人で図書館に行く事にした。
誰も信用出来ない。
いつ誰に揚げ足を取られるかなんて分からない。だからいつだって注意深く行動するべきだと、社会人になってからより用心深くなった。
真の友と呼べる心許せる人間はいない。
誰にだって上べだけの関係で、誰にも心開く事は無い。そうやって今までずっと孤独で生きてきたから、警戒心は人一倍強い。