古本屋の魔女と 孤独の王子様

朝は毎日憂鬱で…

波の音を聞いた気がして…私はそっと目を開ける。
ああ…ここは大都会東京…波音なんて聴こえる筈がない。

高校を卒業して島を飛び出し、逃げるようにここ東京にやって来て5年。

どこに行っても冴えない私は結局、この場所でも無意識のうちに日陰を探し、何も変わる事なく変える事もせず、冴えない毎日をなんとなく過ごしている。

子供の頃に発症した紫外線アレルギーは、大人になって行くごとに段々と薄らいで、今となっては太陽に当たっても赤くヒリヒリする程度に落ち着いた。

だから、黒のマントも夜行性のような生活も中学を卒業と同時に辞めた。と、言って性格まで変わる訳はなく、結局何処にいても陰気臭いと言われ、本だけが友達と言う寂しい人間には変わりなかった。

椎菜 日向(しいな ひなた)23歳 
18歳で島を出て東京の大学に通い図書館司書の資格を取る。今年3月に卒業し、都内のこじんまりした図書館に就職したばかりだ。
それもこれも本の事だけはやたら詳しくて、試験官の質問に的確に答えられたからだと思っている。

黒縁メガネの引き篭もり、それに対人恐怖症のコミュ症なんて、どこも雇ってくれないと同期の学生からは噂されていた。
人柄や性格で選ばれた訳では無い事くらい本人だって分かっている。
就職してみて分かった事は、ただ、大人しく従うだけの人間が欲しかっただけなのかもしれない…と言う事。
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