【完結】婚約破棄された男装令嬢ヴァレンティーナは明日を強く生きる!そして愛を知る

苦しい気持ち、そして外道

 これが恋というもの?
 初めての恋に気付いたら、もう失恋していた。
 愛に失望していると、思っていた。
 でもそれは恋すらしたことがなかったから――それだけだった。

「……こんな感情を皆は抱き、そして愛を手に入れるのか……? そんな難しいことを皆がしている? 信じられない……」

 でも妹分のアリスは、その愛を手に入れたのだ。

「それはそうだ……愛されるべき人が愛を手に入れる。当然だ……」

 アリスほど可愛い娘は、そうそういない。
 剣しかなく、魅力もない自分が愛されることはない。
 
「……盛大に祝ってやらんとな……盛大に」

 大好きな二人が結ばれたのだ。
 こんなに嬉しいことはない、と思おうとする。
 独り言が虚しく部屋に響いて、寂しさがじわりじわりと沁み込んでいく。

「……一人か……」

 一人で家を出るつもりだったのに、アリスが来てくれて実際に一人になったのは初めてだった。
 
「……祝いをしてアリスの今後を見守ってから……私だけ、この村を出よう……」

 そう言ってヴァレンティーナはベッドから降りた。
 まだ雨は降っているが霧雨だ。

「……散歩でもして、冷たい空気を吸って、冷静になるか……」

 冷たい風と霧雨に、この哀しく燃えて終わる恋を冷やしてほしくなった。
 ヴァレンティーナはもともと夜の散歩が好きで、いつも自分の屋敷周りを歩いていたのだ。

 ラファエルの父の肖像画の前を通る。
 誰もいない。
 パーティーをしている部屋からは、まだ盛り上がっている様子が伺える。
 そっと、玄関から外へ出た。
 
 冷たく濡れた空気が、ヴァレンティーナを包む。
 自分のマントはアリスがほつれを直すと、持っていってしまっているのでラファエルのマントを着ていた。

「……バカなのか、私は……」

 彼のマントに染み込むオレンジの香りなどを嗅いだら、忘れるどころではなかった。
 長く雨に打たれて、しょんぼりした花壇の花々。
 
「私のようだと思うなど、花にも迷惑だな。……道場の空気でも吸うか」

 少し冷静になろうと、ヴァレンティーナは胸元の鍵を握りしめた。
 剣を振るうつもりはないが、道場の凛とした空気は身を引き締める。
 
「ん……?」

 霧雨の暗い闇。
 庭は微量発光石が飾られており、そこらそこらで淡い光が放たれている。
 ヴァレンティーナは夜目が利くのでそれだけで十分、道場へ向かう道を歩いていたが……。
 何やら道場の周りに不審な影が。
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