純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

「それでは、高原さんにおいでいただく日ですが……。早瀬さん、調整お願いできる?」

「はい。……それでは」

私は強張りそうになる頬を引っ張り上げて、笑顔を作った。

「今のうちに決めてしまってもよろしいですか?」

どうせまた、あの日のように無愛想な顔をしたままなのだろう――そう思いながら私は彼に訊ねた。

ところが。

今日の彼は、口角をわずかに引き上げて笑みを浮かべて見せたのだ。

「……!」

社長も大宮もいるというのに、私は思わず彼をまじまじと見つめてしまった。その笑みは作り物のように見えはしたが、この前の飲み会の時と比べたらギャップがありすぎた。こんな顔もできるのかと呆気にとられ、あの飲み会で会った人間と本当に同一人物なのかと確認したくなってしまった。

高原は私の反応に、絶対に気がついたはずだ。しかし、彼は貼り付けた笑みを崩さない。

その笑みに狼狽えたのをごまかすように、私はいったん手帳のカレンダーに目を落とし、都合の良さそうな日を確認する。

「えぇと、10月をスタートとするのでしたら……来週の金曜日、午後などはいかがでしょうか?タイミング的にちょうどいいのですが。それとも他に、ご希望の日時はおありでしょうか?」

「いつでも構いません。早瀬さんの都合に合わせますので」

「それでは……」

私は少し考えて、時間を提示する。

「来週の金曜日、午後3時ではいかがですか?」

そう言いながら顔を上げた私は、うっかり高原の視線に捕まった。

彼は私を真っすぐに見ながら首を縦に振った。

「えぇ、大丈夫です。その日、その時間に伺います」

私は目を逸らしたくなるのをぐっと堪えた。ここで逃げてしまったら、負けのような気がした。それに、どことなく彼の目が面白がっている風なのが気に食わない。

負けないんだから――。

高原の切れ長の目を負けじとしっかり見返すと、私は余計な感情を排除した仕事用の笑顔を浮かべた。

「当日、お待ちしております」
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