純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

まったくいちいち嫌味っぽい――。

むっとしたものの、それを押さえて私は訊ねる。

「でもどうしてですか?私のことなど、気にかけて頂かなくても良かったのに……」

そこでいったん言葉を切ってから、私は眉根を寄せて付け加えた。

「第一あの飲み会の日の高原さんは、私のことなんか嫌いだっていうような態度だったじゃありませんか。今さら感しかないのですが」

嫌味には嫌味で――そう思って対抗したつもりだった。それなのに、高原は急に真顔になり、ふいっと目を逸らした。

「あの時は……緊張してたんだよ」

あまりにも高原らしくない様子を目の当たりにして、私は目を瞬かせた。思わず丁寧語を使うことも忘れて、わざわざ確かめるように言った。

「緊張?あなたが?最初から最後までずっとあんなだったのに?」

「それは……」

うっかり口を滑らせてしまった――そんな風にも見える表情で、高原は何かを言いかけた。

そこへ店員がやって来る。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あ、すみません、まだ……」

店員にそう言いかけた私に、高原が横から聞いてきた。

「早瀬さん、何か好き嫌いはある?」

「……いえ、特にはありませんが」

「それじゃあ、このお任せパスタコースを2つ。デザートは後から決めても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

店員が頷くのを見て、高原は閉じたメニューをまとめる。

「ではお願いします」

「かしこまりました」

店員の後ろ姿を見送ってから、私は高原を見た。

「あの、コースって……」

「あぁ、勝手に注文して悪かった。でもそうでもしないと、早瀬さん、遠慮して飲み物だけとかそんな感じになったんじゃないのか。食べられるだけ食べればいい。残ったら俺が食べてやるから」

仮にも社長令息に、まさか残り物を食べさせるなんてことができるわけない。

「いえっ、大丈夫です。全部頂きます」

「足りなければ追加していいぞ」

「私、大食漢ではありませんので。ご心配なく」

つんとする私を見て、高原は肩を小さく揺らして笑った。

こんな顔を見るのは今日、何度目だろう――。

高原が見せる思いがけない自然な笑顔に、私はそわそわと落ち着かなかった。
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