全部、先生が教えて。
「……」
唇を少しだけ噛み締めた行波先生は、小さく言葉を発した。
「………秦野こそ、何で分かんないんだよ」
「え?」
行波先生は力強く拳を握り締め、少し震えた。
何か言葉を叫ぼうと口が空いたが…その言葉を喉で留め、再び口を閉じる。
「……いや、うん。…じゃあ、また。委員会の当番で」
挙動不審な行波先生。
走って逃げるように、校舎の中へ消えていった。
「……何だろう」
何だろう、何だろう。
分からない。
本当に…行波先生の考えていることが分からない。
親しく話せる友達が居れば、行波先生について相談とか出来るのに。
「…………」
そう思って気付く。
友達がいたら、私は行波先生の『何』を相談するの?
分からない。
分からない。分からない。
私は、本さえあれば。
それで良いのに。
頭の中でチラつく、さっきの行波先生の表情。
興味無いのに。
モヤモヤっとする、心。
「……」
…妙に行波先生のことが、気になってしまった。