しょっぱい後には甘いもの。

「どうぞお幸せに。」


床にバッサリ広がったのり塩を片付けず、ソファーから立ち上がると孝則が私を呼び止める。


「…美穂っ!!」


あらあらあら。
もう私と別れること後悔?そりゃあ私も結婚するもんだと思っていた相手ですから、この出来事はきっと一生死ぬまでぐちぐち言うけどそれは仕方ないよね?
突然私がいきなり孝則の過ちを思い出して機嫌悪くなるのも当たり前だよね?
許す私の心の広さは遊牧民が暮らせるね。


「孝則…。」
「美穂…。」


「たかの…「それでさ?いつ出てってくれる?彼女、妊娠してるから早く一緒に住みたいんだ。」



たかのりぃぃぃぃ!!!



とりあえず私の右手は拳の形になっているけどそれは許されると思うんだ!
でも本当は私、護身用の為に通ったのは柔道で拳より組み手だけど、この状況は正拳に一票頂きます。



ボゴッ!!


なんか顔面を殴る時は顎を狙ったら良いとか聞いたことあるけど、涙出るほど痛いのは鼻って男友達が言っていたので、取って付けたような孝則の大きな鼻にexcellent!って画面に表示されそうな一撃をお見舞いした所で荷物をまとめる。

この2LDKのアパートに6年と8ヵ月、思い出しかないこの部屋をキャリーバック転がしてアパートを出る。

まぁ普通に考えて荷物全部持っていけるか!って話だし、ちょっと長い旅行かな?くらいの私物を持って一先ずまんが喫茶で寝泊まりする。


さてどうしよう
早急に決めなきゃいけないのは住むところ。
孝則のアパートに置いてある家電製品は貰うつもりだが、先ずは住みかを決めなくては。

どうしよう…

職場に近いところ…

引っ越し業者の連絡…

結婚を待ち望んでいた親に報告…





眠れないかと思いきや、どうやら瞼は重くて眠りにつきそうな勢い。
まだまだ頭は現実を受け入れていないかもしれない。
明日になったらこれが全て夢で、起きてきた孝則におはようと声をかけて、朝食と孝則のお弁当を作っているかもしれない。

目は閉じているのに、
一つ涙が溢れては孝則との思い出が流れ、
二つ涙が溢れては孝則との会話が流れていく。

馬鹿だな私。

残業も出張も全部全部信じてた。
子供が出来たら何人欲しい?孝則の鼻に似た女の子だったら可哀想だねと笑ったあの日。

何年も一緒にいるから仕方ないのかなと今はほとんど無いセックスも、寂しいなと考えていたのは私だけだった。

孝則は私じゃない女と、その間に出来た子供と一緒に生きていくんだね。


傷つけても良いと格下げされた私の存在は、もう要らないのね。

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