転生したら悪役令嬢未満でした。

真相を知りました。

 こんな言葉がある、『有言実行』。言ったことは必ず実行する、という意味である。

「ようやく兄上の縁談が(まと)まって、君と正式に婚約できたよ」

 満面に笑みを湛えた、リヒト王子。ブーケトスでの「幸せになるのは僕と君」発言から、実に三日後に達成という快挙であった。
 早い、展開が早い。……って、あれ? これと同じことつい最近も思ったような⁉
 しかも今いる場所は、数ヶ月前に最後の晩餐をしたはずの席である。あの日の悲壮感が滑稽に思えるほど、私たちは今日もほのぼのと二人で紅茶を飲んでいる。ツッコミが追いつかない。
 あの日と違うのは、今日は朝一番といっても過言でない時間帯に彼が来たことだ。ぎりぎり常識的な時間ではあるが、それは使用人に対する常識で。貴族――ましてや王族がどこかを訪問する時間帯では決してない。

「私は父からは何も伺っていませんが……?」
「ああ、うん。僕がさっき許可をもらって、その足でここに来たから。夜には話があるんじゃないかな」

 その足で来たって、フットワーク軽いな王子⁉ 道理で従者の一人もいないはずだ。
 そして父は先程王宮に出仕したばかり。リヒト王子と丁度入れ違いになってしまった。

「婚約者候補から正式な婚約者にという話なら大事と考え、夜を待たずに一度邸に戻ってくるかもしれませんね」
「うーん、どうだろう。やっぱり夜じゃないかな。父上から宰相に話すのは、昼過ぎだと思うから。必要書類にサインはしてもらったけど、父上はあの後、二度寝しただろうし」
「二度寝……」

 国王陛下でもするんだ、二度寝。って、いやそれ何時に叩き起こしたのよ、あなた。
 リヒト王子にとっては父親といえど、国王にその所行はどう考えても不敬なのだが。

「昨晩、兄上が婚約者の姫がいる隣国から戻ってきてね。交渉が上手く行ったらしいんだ。それには僕も案を出していたから、お礼にいらして」

 私のはらはらを余所に、リヒト王子が涼しい顔で話を進める。

「まあ予想通りというか、お礼はただの前置きだったね。本題は姫との惚気話。で、その話の流れで兄上が早く結婚したいと言い出して。そんな話題が出たら、僕も君との話をするしかないよね。それで結局、二人で話してたら朝になっていたから――」
「朝⁉」

 え、さらっと言ったけど、それ時間の経過おかしくない? さすがに真夜中に王太子殿下が弟を訪ねるとは思えないし。そこそこ遅い時間から恋バナして翌朝になるって、おかしくない⁉

「二人でそのまま父上のところまで行ったんだよね。善は急げということで」

 深夜通り越して、徹夜テンションでの突撃とか。うちの国の王子は、揃いも揃って何をやっているんだ……。

「実際問題、交渉が上手く行った直後の今が好機なんだよ。こちらに有利に運べそうなのに、兄上の態度からは姫に熱を上げてて結婚を急いでいるようにしか見えない。……って、父上に耳打ちしたのが利いたかな」
「……」

 リヒト王子が楽しげに、くすっと笑う。……あれ? 今、二次創作でしかないはずの『無邪気な笑顔で敵を陥れるリヒト王子』が垣間見えたような……?

「さすがに式が執り行われるのはまだ先だけど、正式な公表は明日にでもあるはずだよ。ヴィオが僕の正式な婚約者になったというのは、そういうこと。僕は第二王子で母も身分の高くない側室だけど、やっぱり先に結婚して子供ができたら揉めるだろうから。僕が君と結婚するためにも、兄上には頑張っていただいたよ」

 垣間見えて、じゃない。もうこれ「垣間」じゃない。前面に来てる、腹黒キャラが前面に来てるよ、リヒト王子!
 王太子殿下に何をしたの、この人。この口振り、絶対交渉に関する提案をしただけじゃないわ。陛下の寝所に早朝から突撃したのも、この人が王太子殿下を焚き付けた線が濃厚だわ、絶対。
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