転生したら悪役令嬢未満でした。
「最初は、居残り勉強で遅くなったモニカに学園まで馬車の手配でしょ。で、次はモニカがランセルの落とし物に気付いて届ける。その次は突然の雨に物置小屋に駆け込めば、二人きりになって。ああ、ファンブックの書き下ろしにあった、昼食を食べ損ねたランセルにモニカが差し入れってシチュエーションも、ついでにやったかな」
「……」
「短期間にやたら接触がある子がいて、その子が視界に入ったとすれば否応なしに目が行くじゃない? 恋とかそういうのを別にして、「あ、最近よく見かける子だ」って単純に。そこをすかさず、「そんな偶然に偶然が重なるなんて、きっと運命の女性だよ」と背中を押してあげたんだよ」
「……」
「ランセルは騎士に憧れて実際騎士になったあたり、「剣を捧げる運命の女性」というロマンチストな設定が効くと思ったんだよね。ゲームでの様子からいってランセルはモニカとくっつかないと生涯独身の恐れもあったし、人助けにもなったんじゃないかな。まあ彼をターゲットにした理由は、純粋にタイプだけで見ると彼が菫ちゃんの好みだったからだけど。一番脅威な男をモニカに押し付けておけば、安心てね」
「押し付け……」

 言い方! あとその隠そうともしていない悪い顔!

「あまりに思い通り行くものだから、ベタなドラマでも観ている気分になってたよ。ああでも、結婚については冗談半分で(そそのか)しただけだったんだ。そこについては僕の方が驚いた」
「唆しはしたのね……」
「菫ちゃんの記憶が戻ったんだよ、早く厄介事を片付けて伝えたいに決まってるでしょ。もっとも記憶が戻らなくても、僕は君と結婚するつもりだったけどね。菫ちゃんが貸してくれた『あな届』をやってたときに、僕はリヒト王子はヴィオレッタと結婚した方が幸せになれるんじゃないかと思ってたから」

 どこかで聞いたわ、その感想。
 やっぱり悪役令嬢から悪役要素を抜いたらそうなるんだって。次回作はこの反省を生かして? 公式。

「菫ちゃんが読み損ねたファンブックを僕は読んで、だからヴィオレッタが話す「好きな相手」がリヒト王子――僕なことも、僕は知っていたしね」
「え?」

 遠い彼の地へ念を送っていたところ、まさにその公式情報がリヒト王子の口から語られる。
 そういえばファンブックの紹介文に、『主要キャラからサブキャラまで、詳しい人物設定を公開』ってあった。
 あったけど……えっ⁉

「何で君が驚くの? 今の君なら知ってるはずだよ、ヴィオが誰を好きだったのか」
「あっ」

 リヒト王子の言葉に、思わず大きな声が出る。

(そうか、『好きな相手』ってそういう……)

 私はゲームでのヴィオレッタの台詞「自分も好きな相手がいるから身を引く」を、「自分にも好きな人がいるから、あなたもそちらとお幸せに」という意味で受け取っていた。淡々とそう返して、さっさと退場した――という印象だった。
 だから私はリヒト王子との最後の晩餐の後、ヴィオレッタの失恋の傷を癒やした相手を探していたのだ。けれど、そもそもそこからして間違っていた。
 ヴィオレッタが失恋をする。それは誰に? 当然、リヒト王子にだ。そして失恋するには、これも当然、彼に恋をしていないことにはそうならない。
 ヴィオレッタは新しい恋が始まっていたんじゃない。失恋した相手を「好きな相手」と言っていたのだ。嘘はついていない。
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