不良が弟子になりまして。
超凶悪不良くん
キーンコーンカーンコーン


都立立川高校がホームルーム前の休み時間に入った時。
一年二組の教室では。





「むふふ....」


私、水瀬理真(みなせりま)が、手元にある成績表をながめながらほくそ笑んでいた。

(我ながら、最強....!!)

科目が書かれている欄のしたには成績で最大評価の“5”が羅列されている。


そして、先生たちのコメント欄である《備考》には、〈学園内の模範としてこれからも頑張ってください〉とかかれている。


(あぁ、嬉しい........っ!!誰かに自慢したい...!!!)


そう、私はとてつもなく成績がいいのである。


—————....自分で言うことじゃないけどね。

「何ニヤニヤしてんのよ」


唐突に上からそんな声が降ってきた。

バッと上を見上げると、声の主は、ヤバいものを見たような目で見下ろしてくる、私の親友だった。


「あ、澪だ」


「何が《あ、澪だ》よ...。理真は周りを見なさすぎよ」

ジロッとにらんでくる澪。
目には、呆れの色が滲んでいた。


「周りをみる、ね.....」




すーっと教室の中を見渡すけれど。



よく見れば、こちらをうかがう男子生徒の視線ばかり。

しかも、それは。
..........わたしのとなり私の隣に向けられていて。



(....周りのやつら、澪ばっか見てるじゃん)
こんなの、周りを見る意味あるのか....?

澪が可愛いからって言うのはわかるけどさ。

そんなにあからさまに見るかなっ⁉︎


ジロッと澪に目をやれば、「何よ」と言いたげな顔で見てくるし。


はぁ。本人が気づいてなかったら、あんまり意味ない気がするけど。


少しゲンナリした私は、成績表に向かい直した。



そして、思う。


..........やっぱり、澪、好かれてるなぁ。









———澪は、私の、かわいすぎる自慢の友達。



私と、青木澪(あおき みお)は、小学校の時は火花をバチバチと散らすようなライバルだった。

くりくりとした目に、外国人の父親ゆずりの金髪。シュッとしたあごと綺麗な唇。運動も勉強もできるし、さらに、祖父は有名財閥の社長さん。男子にも女子にも好かれる、圧倒的ルックス。
そんな肩書をもった澪は、クラスの女王的存在だった。




...............ある日、私が転校してくるまでは。

かわいい澪と比べて、私は少し転校が多いだけの、ただの一般人。



澪も最初は、私のことをどうってことないやつだと思っていたらしいが、後から成績も実技も追い抜かされていって、すごく悔しかったと言っていた。





澪によれば、
「なにをやっても勝てなくて、めちゃくちゃに恨んでたわ。私が作った地位がガラガラと崩れていく音がした」だそうだ。





(多分だけど、そうなったわけは、私の癖のせいなんだよね)


私は、昔から、成績表を見るのが大好きだった。特に、一番評価の高い“5”が並んだ成績表が。




(理由はないんだけど、“オール5”って、なんかスッキリするんだよね〜)

だから、テストは全て満点であること、体育や家庭科などの実技は先生から与えられた課題以上の結果を出すこと。




これが私の中の信条だったのだ。





(だから、澪にはあんなことやこんなことを言われたなぁ.....)
「田舎者」とか、「勉強と運動だけが取り柄」とか。
澪のライバルだった私は、小学校当時、〈女王の宿敵〉とまで呼ばれていた。


(あの時からすれば、かなりやわらかくなったよね)


一人、ニコニコしている私を、軽蔑するように見つめる澪。


そんな顔してても可愛いの、ずるいなぁ......。


そう思いながら、視線を送ると、
「そういえば、理真、あなたの隣人、またやっつけたらしいわよ」
と、言ってきた。


(ま、また⁉︎)
突然の新ニュースに耳が象になる。

「他校まで行ったらしいわよ、噂によれば」


あいつ......本当に乱暴してるなぁ。
まぁ、どうせ関わることなんかないし、私には関係ないけど。


まぁ、でも。ちょっとは興味あるんだよね......。

「不良を倒すためにわざわざ他校まで.......?」


「えぇ、しかも拠点をぶっ潰し、じゃなくて、壊してしまったらしいわ」


....ぶっ潰したって言おうとしてた気がする。
たまに澪ってぶっとんだ発言するんだよなぁ。
ま、いいや。聞かなかったことにして。

「でも、その割には、学校来ないよね」

「それは、成瀬だからしょうがないでしょ」

そう言いながら、澪は私の隣の空っぽの席に目を向ける。






私の隣の席(澪は隣人と呼んでいる)の成瀬源(なるせげん)は、知らない人はいないほどの劣等生。

毎日のように学校を休んでは、他校の不良たちと絡んだり、それこそ、不良の拠点をぶっ潰したりといろいろやっているらしい。


(そこから、《立川の鬼》っていうあだ名がついてるんだよね....)


しかも、不登校のくせに、てんで勉強ができない。

少女マンガとかでは、こういうヤツって頭が良かったりするのだが、そんなことはない。




断言する。





なぜなら、私は、成瀬の成績表を見たことがあるからだ!!!

(ちょっと気になってのぞいたら、綺麗に“1”がならんでたんだよね....)
あの時のことを思い出すと、今でも開いた口がふさがらない。

自慢じゃないけれど、“1”が並んだ成績表を見たことがなかったから。
(いや、誰でも見たことないよね⁉︎)




.......一学期の成績返却日、なぜだか、成瀬がきちんと学校に来ていた。そして、配られた自分の成績表を見た時の成瀬の顔は一ミリも変わらず。私はあれをのぞいた時、目が飛び出るほどびっくりしたのに。本人は、冷静そのもので、無表情でグチャグチャにまるめ、机に突っ込んでいた。
でも、私は知っている。
(あのあと、成瀬の成績表がビリビリにやぶれた状態で教室のゴミ箱に入っていたことを!!)
 





思い出して、くくくっと笑っていると。

「私、あんたのこと、心底怖いわ...」
と言って澪が顔をしかめていた。
(....たしかに、一人で笑ってたけどっ!!)
澪に、『ひどーいっ』と反論しようとした時だった。





ガラガラッ







教室の前の扉が勢いよく開いた。





入ってきたのは。


「⁉︎」

センター分けされたサラサラの黒い髪。誰でも飲み込んでしまいそうな漆黒の瞳。シュッと通った綺麗な鼻。そして、口と耳にはキラキラと光る銀色のピアス。







———その名も、成瀬源である。



「え、めっちゃイケメン...」
「ピアス、怖いね....」
「《立川の鬼》がなんで....?」
「あいつ、また拠点ぶっ壊したんだろ...」
「関わったら消されそう...」


ざわざわとし始める教室には、異様な雰囲気が立ち込めていた。




それをものともせず、成瀬は教室のはしっこにある、私の隣の席に、向かってくる。




そして、ガタッと大きな音を立てて椅子に座っり、私をジロッとにらんできた。

座ってる姿でさえ怖い。


(ひえっ、殺気が、殺気が、見える......っ⁉︎)



まわりのみんなは「どうなるんだ?」と言う視線で私たちを見てくる。

が、助けてはくれない。


成瀬はギロっと私の方を睨んでくる。



えぇ、なんでこんなに見られてるの....⁉︎


私、何かしましたっけ......??


成瀬は、私から視線をはずさない。何か言いたげに見つめてくる。

(え?こ、これは....挨拶しろってこと....?)

挨拶されないから怒ってるのかな。

まぁ、隣の人から挨拶されなかったら、誰だって嫌だよね.....。



私は口角をひきつらせながら成瀬にむかう。
(え、え、えーっと....)


「ほ、本日も、ガラが悪いですね.....?」

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