神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜

《二》私を、すぐに戻してくれ!




声を限りにした叫びは、誰の耳にも届かなかった。
……小百合自身にさえも。

立て続けに起きた衝撃的な出来事は、小百合の意識をつかの間、失わせたようだ。
視界が定まらず、自分の身体がどうなっているのかさえ、分からなかった。

「……美形じゃのう……」

突然。
ほう、と。感心したような深いため息と共に、少年の呆けた声が耳に入ってきた。
それを境に、小百合の朦朧(もうろう)とした意識が、急激にはっきりとする。

(なんだ、ここは……)

格子戸からの月明かりが斜めに差し込む、板の間。三畳ほどだろうか。
正面に神棚のようなものがある以外、何もない。
───目の前に、ざんばら髪の人懐っこい瞳をした少年はいるが。

(どういうことだ)

血まみれの兄も、惨殺された家族も、消えている。
どころか、ここは小百合が十八年間暮らした家ですらない。

「……いかんな。おぬしがあまりに美しゅうて、見ほれてしもうた。さて」
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