神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜

《三》本当の嫁にするなら




目を覚ますと、そこはまた、暗がりのなかだった。

「……待て。いま、灯りをつける」

起き上がり、辺りを見回した百合子の視界の端で、声と共に何かが動く。

ぽっ……と、灯された火に浮かびあがるのは、ざんばら髪の少年の姿。
そして、見覚えのある室内──百合子、いや『小百合』が“召喚”された三畳ほどの板の間。

格子戸の向こうは、闇夜。まさしく新月の晩であった。

「……私は、なぜここにいる?」

眉をひそめ、百合子は黒い“神獣”の“化身”を見つめる。
少年は、百合子の視線から逃れるように、闇向こうに目を向けた。

「今宵は、見ての通りの新月───おぬしの願いが、ようやく叶うのじゃ。
……待たせて、すまなかったのう」

言って立ち上がったコクコは、微笑みを浮かべ百合子の側に近寄ってきた。
その手には、金色に輝く稲穂がある。

「この“神宝具(じんぽうぐ)”が」

百合子に手渡しながら、少年が告げた。

「おぬしが想う『時と空間』に、連れていってくれるはずじゃ。これで、おぬしは元の世界に、帰れる」
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