友達のままで
 電話を切ると程なくして、航大に連れられて昴が帰ってきた。

「おかえり。公園にいたみたいだね」
「うん。行くとこなんかねえし……。やっぱり、ちゃんと話さねえと納得いかない」
「そうだよね。ちゃんと私の正直な気持ち話すから」

 そう言うと、昴が表情を強張らせた。

「昴のことは好きだけど、友達が一緒の時の昴は嫌い」
「え……」
「友達といる時の昴、私にだけすごく当たりが強いし、無茶なことも言ってくるし、気遣いなんて微塵も感じられなくて、これが昴の恋人になれた代償なのかと思ったら辛すぎて……」
「ごめん」

 いとも簡単に謝られたことで、苛立ちや、悲しみや、不安といった負の感情でぱんぱんに膨らんでいた心の中の風船が、シューと音を立てて萎んでいった。

「いいかっこしたかったんだ、友達の前で。……ただそれだけ」
「ええっ!?」

 耳を疑う言葉に、思わず大きな声が出た。

「睦美がすげえいい女だって、俺の彼女が一番だって自慢したかったんだ。かっこつけたつもりが、一番かっこわりい結末になったけど……」
「ほんとにそれだけ?」
「ほんとにそれだけ」

 胸のつかえが取れたかわりに、心の中は罪悪感でいっぱいになった。
 昴は相当傷付いたに違いない。

「昴、友達は大事だって言ってたでしょ? だから、付き合うことになった時、嬉しい反面、不安もあったの。最終的には友達を選ぶんじゃないかって」
「それなら、一緒に住もうなんて言わねえよ」
「それはそうだけど……」
「俺らって、もうその段階は過ぎてるだろ?」
「え?」
「恋人は別れたら終わりだって言ったけど、家族になれば別だ」

 睦美は息を呑んだ。

「睦美、結婚しよう」
「……」
「……嫌?」

 あの日のように、昴が不安げな表情を見せた。
 今はそんな表情が、とても愛おしく思える。

 友達のままでは知ることができなかったこと。

 他人だった昴。
 友達になった昴。
 恋人になった昴。
 これから夫となる昴。

 睦美はゆっくりと首を横に振り、昴の胸に顔を埋めた。

 ――これからも、いろんなあなたに会いたい。





【完】
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