婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました

14. どちらも捨てがたいとは強欲ですこと


 ――今日もラングレー会長が邸にいらっしゃっているようです。

 しかし今日は私ではなく、妹モニクが新しいドレスと宝飾品を求めてお呼びしたと侍女が話しておりました。

 お気に入りのハーブティーの支度をしてくれている若い侍女が声をひそめて話しかけてきます。

「モニクお嬢様は、会長自らいらっしゃるようにと商会へお願いしたそうです」
「そうなの? 何か理由があるのかしら?」
「会長さんはあのように素敵な紳士様ですから、モニクお嬢様もすっかり虜になっているようですよ」

 モニクにはフェルナンド様という想い人がいるじゃありませんか……。

 ですが本来フェルナンド様は私の婚約者ですから、モニクが他に目をむけてくださるならば、それは喜ばしいことなのでしょうが。

「なんだかモヤモヤしますわね」

 いつも美味しいお茶の時間も苦く感じてしまうのは、私ばかりが色々なことに耐えているにも関わらず、フェルナンド様も家族も、そしてラングレー会長も好き勝手なことをなさるからですわ。

 そう思いながらも苦く感じる液体を喉に通していると、私の自室の扉が勢いよく開きました。

「お姉様! フェルナンド様がいらっしゃっているんだから、早く相手をしてさしあげて。モニクは今来客があって忙しいのに、フェルナンド様が邪魔をするのよ」
「あら、フェルナンド様がいらっしゃっていたのは初耳でしたわ。それではお庭のガゼボにでもお通ししておいてくださらない? 私もすぐ参りますから」
「来客がお帰りになったらまた声を掛けるから、フェルナンド様にはそれまでお姉様と一緒に過ごしていただいてね」

 モニクはラングレー会長と、フェルナンド様と両方とも手放す気がないのですね。

 そうでした、この妹はとても面食いなのでしたわ。

 言うことを言ったらすぐに部屋から出て行ったモニクを見送って、私もフェルナンド様がいらっしゃるガゼボへと向かうために支度をいたしましょう。


 



 
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