婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました

21. 巷で流行りの婚約破棄ですか


「そこまでは理解いたしましたが、それからなぜフォスティーヌ夫人が、わざわざ別れさせ屋に依頼する話に繋がるのですか?」

 そう、ここまでは理解できたとしても、フォスティーヌ夫人がわざわざ私とフェルナンド様が不仲なことを憂いて婚約破棄させるなど、辺境伯領のことを考えますと些細な問題だと私には思われたのです。

「ヴィオレット、愛されない結婚は決して幸せにはなれないのよ。政略結婚でもお互い割り切って家庭を築いている夫婦はたくさんいるけれど、貴女とフェルナンド辺境伯令息の関係は、そう上手く行くとは思えないわ」
「そんなこと分かりませんわ。私が努力して堪えることができればきっと……」

 いつも私のことを忌々しそうに見るフェルナンド様、会えば皮肉ばかりでまともにエスコートしていただいたことも有りません。
 どうしてあそこまで私のことが嫌いなのか、改めて尋ねたことはございませんが。

「あの馬鹿息子はね、お父様であるレオナールが貴女のことを娘のように可愛がっていることや、とても優秀な嫡男のローラン様と比べられて、卑屈になっているの。本当、器が小さいことよね」
「そんな……」
「だから、貴女のように頭の回転が良くて常に堂々としている令嬢よりも、モニク嬢のようなちょっと頭の軽いタイプの令嬢の方が、自尊心を保つことができるのよ」

 そう言われてみれば、今までのフェルナンド様の言動を思い起こして、そのような兆候は確かにあったかも知れないと思い当たりましたわ。

「ヴィオレット、貴女がいくら我慢してこの婚姻を結んでも、フェルナンド辺境伯令息は不幸にしかならないわ。もちろん、結果的には貴女もね」
「……それでも、辺境伯領の為にはそうするしか……」

 私が信じてきたものは何だったのか、私の今までの我慢は一体何だったのか、考えるととても辛くて。
 淑女にあるまじきことではありますが、フォスティーヌ夫人に優しく抱擁されながら、大きな声で泣いてしまったのです。

「それでは、一体私はどうしたら良いんですの?」

 抱擁しながら背中をポンポンと優しく叩いてくださる夫人の肩は、私の涙と鼻水でグチョグチョになってしまいました。

 それでも答えの分からない私の問いに、母親のようなお姉様のような優しいお声ながらも、元気よく答えてくださったのですわ。

「ヴィオレット、ここで別れさせ屋による婚約破棄よ!」
 
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