婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました

33. 破壊力抜群のお顔を伏せてくださいませ


 ここ最近色々なことがあり過ぎて、私もう三日も寝込んでいます。

「ヴィオレット嬢、お加減はいかがですか?」
「ラングレー会長、このようなお見苦しい姿で申し訳ありません」
「無理は禁物ですよ。ここのところは怒涛の日々でしたからね。貴女をここまで苦しませることになるとは思いもよらず、お許しください」

 それでもラングレー会長は、私の為に嫌な役割をしてくださったのですもの。

「許すも何もありませんことよ。ラングレー会長のお陰で私の身の回りはサッパリいたしましたわ。私だって、下手をしたら今後何か酷いことをされていたかも知れませんもの」
「もっと早くお助け出来ればよかったのですが、証拠集めに時間がかかり、申し訳ありません」

 部屋着のままでソファーに腰掛けた私の手を、隣に腰掛けたラングレー会長がそっと覆われます。

「ラングレー会長には感謝しかありませんのよ。だからもう謝るのはおよしになって」

 笑顔を浮かべて会長の方へと向き直りますと、会長は私の目を、あの美しいお色の瞳でじっとお見つめになるのです。

「いつになったら名を呼んでくださるのですが? お兄ちゃまも良かったですが、貴女には名で呼んでいただきたい。ヴィオレット」

 このように壮絶な色気をかもしだしながら、整い過ぎたお顔で切なそうに口にするのは反則ですわ!
 どうかその破壊力抜群のお顔を伏せてくださいませ!

「……アルフォンス、さま?」
「アルフォンス」
「アルフォンス……」

 敬称すら許していただけないなんて! もう恥ずかしくて私は死んでしまいそうです!

 顔面を真っ赤に染めてしまっているであろう私の頬を、そう優しく撫でたりするのはおやめくださいませ。
 本当に心臓がおかしいのです。

「私はもうすでに随分と待たされましたから、婚約提示期間が過ぎたらすぐに妻になってくださいね」

 にっこりと悪戯な笑みを浮かべたアルフォンスは、本当に世渡りに長けてらっしゃる(ずるい)方ですわ。



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