捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される

天才建築家

 ドイツ郊外。
 商業施設の内覧会に招待された建築家リッカは、建物の内部を満足そうに眺めた。
 
「計算通りだな」
 持続可能を念頭に置き、気候や資源に配慮したハイブリッド・ティンバー・モジュラー工法で建設されたこの建物は、リッカのこだわりが詰まった作品。
 日本の『和』を融合させたヨーロッパ最大級の木造ハイブリッド建築だ。
 
「リッカ、日本に帰るんだって?」
 建築家仲間のスチュワートの問いにリッカは首を横に振る。
 
「じいさんの事務所を片付けに行くだけだ」
 リッカの祖父も建築家。
 祖父は日本で建築事務所をやっていたが、病気になり続けていくことが難しいと判断し、従業員は全員他の事務所へ転職させた。
 あとは事務所の片付けをし、退去するだけ。

「すぐにドイツに戻ってくるよ」
 リッカは森林に囲まれた美しい商業施設と青空を見上げながら、次はどんな建物を作ろうかと子供のように笑った――。

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