捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される

スカウト

 ……甘やかされている気がする。
 想いが通じ合ったあとから、急に律のスキンシップが増えた。
 ドイツではあたりまえだと言われるけれど、なかなか慣れない。
 だが、建築のデザインをしているときはすごく真剣で、ドイツ語で会話しながら図面を引いている律はかっこよすぎて、見ているだけで魂が抜けそうだった。

「この工法だと、この広さは難しい。三階建てには耐えられない」
 強度計算をしてみろと言われた由紀は電卓をたたく。

「あ、本当だ」
「ここに一本柱を立てたらどうだ?」
「でも、ここに立てると動線が」
 ビジネスマンの通勤ラッシュ時は柱が一本あるだけで誰かが避けなくてはならない。
 避ければそこがストレスになる。

「ここを、えっと」
 サラサラと別案を描いて律に見せると、律は「おもしろい」と笑った。

「明日、爺さんが手術だから朝から出かける」
「うん。私は久しぶりに菜々美とランチに行ってくるね」
 楽しんで来いと言いながら律は由紀の唇を小鳥の戯れのように啄んだあと、わざとらしく音を立てて唇を離した。
 
 こんなに幸せでいいのかな。

 翌朝九時には律が出かけてしまった。
 由紀は身支度を整え、十一時に待ち合わせの店の前へ。

「えっ! 凛ちゃん? 久しぶり!」
「菜々美ちゃんにね、由紀ちゃんと会うって聞いたからお休み取ってついてきちゃった」
 急にごめんねと言う凛も、前の会社の同期だ。
 部署は違うけれど会社ではずっと一緒にランチを食べていた。
 久しぶりに三人で会えて嬉しい!

 今日のお店は中華料理の食べ放題。

「小籠包と唐揚げ」
「北京ダック」
「エビチリとチャーハン」
「え? いきなりチャーハン?」
「早っ」
 凛の注文に菜々美も由紀もツッコむ。
 久しぶりの女子会は盛り上がりすぎ、お腹いっぱいではち切れそうなほど食べてしまった。
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