ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

第四話・リゾートホテル風マンション

 タクシーに乗せられて15分ほどが経っただろうか、快適な車内温度と程よい振動に穂香は知らない内に眠ってしまったようだった。本来なら上司が真横にいて、どこへ連れて行かれるかという緊張感でうたた寝すらできない状況のはずだが、連日の寝不足とアルコールとが重なってしまったせいだろう。

「着いたぞ。ほら、さっさと降りて」
「……どこですか、ここ?」

 半分寝ぼけ気味に、言われるままタクシーを降りると、先に車外へ出ていた川岸が見覚えのあるスーツケースを手にしている。トランクから出して貰ったのを穂香の代わりに受け取ってくれたようだ。
 タクシーは白い外壁の大きなマンションのエントランスに横付けされていた。自走式の立体駐車場を備え付け、建物の周辺にはヤシの木が何本も植えられていて、どう考えても分譲の物件。

「俺の家」
「へ? オーナーのお家? え、なんで?」

 オーナーの自宅だと言われたら、ああそうなんだとすぐに納得はできた。多分、リゾートホテル風マンションとかいうやつだ。けれど、どうして穂香がここへ連れて来られたのかは理解できない。

「ネットカフェに寝泊まりするよりはマシだろ。この時間だ、他の住民に邪魔になるから、とにかく中に入れ」

 ジャケットのポケットからキーケースを取り出すと、エントランスの自動ドアを開錠する。そして、穂香のスーツケースを引いて、川岸はスタスタと建物の中へと入っていく。穂香は慌てて、オーナーの後ろを追いかける。

 流されるままに乗ってしまったエレベーターには15階までのボタンが並んでいた。点灯している13の数字を眺めながら、穂香はまだ酔いの残るぼやけた頭を傾げる。

 ――これはもしや、飲み会後のお持ち帰りというやつでは……? え、オーナーに?

 停止して開いた扉からエレベーターを先に出ていく川岸の背中を眺めて、いやいやいやと首を横に振る。通路をスタスタと進んでいくオーナーからは、そんな甘い雰囲気は一切感じない。
 近所への配慮からか、スーツケースは引き摺らずに持ち上げて運んでくれているが、大型サイズだから結構重いはずなのにと少し申し訳なくなる。

 建物の奥から二番目の玄関前で足を止めると、川岸は上下に二つ並んでいる鍵を順に開けていく。扉が開かれたと同時にパッと点灯した照明が、大理石の床を明るく照らして出迎えた。
 どうぞ、とばかりに玄関扉を開いて待ってくれる川岸に、穂香はオズオズと尋ねる。

「あの……なんで私、オーナーの家に連れて来られたんでしょうか?」
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