イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.44:優先順位

「はぁーっ……華恋にそんなロマンスがあったんだね。そりゃメイクの一つでも、覚えないといけなくなるよね」

「僕もまったく気がつかなかったよ。まさか月島さんと宝生君がなんて……」

 市立図書館の休憩室でひとしきり涙を流した私は、そのあと3人で一緒にファミレスへ場所を移した。
 色々と限界だった私は、柚葉とハリー君にいままであった宝生君とのことを全て話した。
 この2人なら信頼できる……そう思ったから、打ち明けることにした。
 一人でいろいろ抱えるには、私には既にあまりにも重たくなっていた。

「でもそっかぁ……皇帝様と図書館デートに、マクドデートに、花火テートに、焼肉デートまでしたんだね。もー羨ましいなー」

「三宅さん、自分の願望がダダ漏れだよ」

「仕方ないでしょ? 多分ウチの学校の女子生徒ほぼ全員、同じ願望を持ってると思うよ」

 それはちょっと大げさ……いや、でも外れていないかもしれない。

「でも……宝生君にはね、多分恋愛感情はない気がするんだ」

「そんなことないでしょ? あ、いや、可能性はあるのかな……」

「元カノさんたちと比べると、私は体の凹凸がないそうだしね」

「か、体の凹凸?」

「ハリー! そうやって、いやらしい目で華恋を見ない!」

「い、いやらしい目でなんて、見てないよっ」

 ハリー君は顔を赤らめて、うつ向いてしまった。

「まあでも……私と宝生君じゃあ、釣り合わないことは確かだしね」

「そんなことないと思うよ。お互い高め合ってるように見えるけどなぁ……でもとりあえずネックなのは、美濃川さんだよね。汚いよ、そんな脅し方。華恋の家の問題と宝生君の問題は、まったく別モノじゃない」

 そう言って柚葉は顔をしかめた。

「例の美濃川さんと宝生君の写真なんだけどね、かなり拡散されてる感じなんだ。『え? 2人付き合ってるの?』『幸せそうじゃん』とかコメントが沢山ついてるんだけど、美濃川さんは全く否定しないんだよね。それで宝生君はSNS一切やってないから、話は広がる一方って感じなんだよ」

「まあ最初からそれが目的だったんじゃないかな。美濃川さんにしてみれば、してやったりなのかもしれないね」

 柚葉の話に、ハリー君が相槌を打つ。

「で、華恋。これからどうするの?」

「……どうするって……」

「あきらめるの?」

 そんなの諦めたくないに決まってる。
 でも……残念だけど物事には優先順位がある。

「私ね、今一番大事なのは、高校を無事卒業することなんだ」

「……華恋」

「だからしばらくは、距離を置こうと思ってる。2人で合うのは、やっぱりまずいよ。美濃川さん何してくるか、わかんないしね。」

「華恋はそれでいいの?」

「いいか悪いかじゃなくて、そうするしかないよ。それでさ、もし縁が続くのだったら卒業してからでもいいかなって……。まあその頃には、宝生君は私なんかに興味を持たなくなってると思うけどね」
 私は自虐的にそう言った。

「心配しないで。友達……そう、普通の友達だよ。だって宝生君自身、私のことは友達だとしか思ってないと思うな。それにあの宝生君と友達になれるってことだけでも、ある意味凄いことだと思わない?」

「華恋がよければそれでいいけど……でも確かに心配よね。お父さん、大丈夫なの?」

「うん、私もそれが心配なんだよ。おかしな事にならないといいんだけど……新学期が始まって、私夜逃げしてるかも」

「縁起でもないこと言わないでよ」
「そ、それはシャレにならないよ」

 柚葉もハリー君も心配してくれている。
 私は冗談が出てくるぐらい、回復していたみたいだ。
 この2人には感謝だ。
 あとは問題が少しでもいい方向へ向かってくれることを祈るしかない。
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