イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.48:力になりたいんだ

 バイトはなんとか間に合った。
 でもバイトの時間中、なかなか集中できなかった。
 英徳高校をやめないといけないかもしれない。
 その事実が、私に重くのしかかった。

 なんとか集中力を切らさずに、バイトを終え帰路につく。
 家に帰ると、お父さんが作ってくれたカツ皿にラップがしてあった。
 スーパーのお惣菜で買ったトンカツに、玉ねぎと卵、めんつゆで味付けをしたもので、お父さんの得意料理だ。
 冷蔵庫の中には、簡単なサラダも入っていた。

 夕食を食べ終えて、私は切り出した。

「お父さん、実はね……」

 私は教頭先生からの話を、そのまま伝えた。
 PTA会長の美濃川さんのお父さんが、お父さんの借金を問題視していること。
 もしPTA総会でそのまま問題となったら、特待から外される可能性が高いこと。
 そして多分その問題は、美濃川さんの個人的な感情から来ていると思われること。

 話を聞き終えたお父さんは大きなため息をついて、絞り出すような声で言った。

「華恋、本当にすまない。全部お父さんのせいだ」

「お父さん、そんなことよりさ、そのお金を借りてるところって、普通のところなの? その……反社会的勢力みたいなところじゃないよね?」

「お金を借りたところは、もちろん変なところじゃない。一般の消費者金融会社だ。ただ最近連絡をしたり家にまで押しかけてくる連中は、ちょっとまともじゃない気がするんだ」

 お父さんはもう一度ため息をついた。

「それにしても……どうしてこのことを、PTA会長さんが知ってるんだろう」

「そこが不思議なのよ。たしかに事の発端は、私への逆恨みみたいなことだけど……その事とお父さんの借金の事とは別じゃない」

「ああ、そうだ。しかし困ったな……」

 お父さんも八方塞がりのようだ。

「とりあえずもう少し様子をみようよ。私も他の公立高校への編入のこと、調べて見るから。それにまだ特待が外れるのが決定したわけでもないじゃない」

「ああ、すまない。このままじゃいけないよな。お父さんも頑張るよ」

 確かに決定的な解決方法は見つからない。
 でも下を向いていても始まらない。
 出来ることから、一つずつやっていこう。

        ◆◆◆

「ふぅ……まったく時間の無駄だったな」

 職員室から教室へ戻る途中、俺は独りごちた。
 
 英語の授業中、家でやってきた宿題のプリントが見当たらなかった。
 先生には授業の終わりに、家に置いてきたと正直に話した。
 ところが帰りがけに、鞄の奥に挟まっていたプリントを発見した。
 あわてて職員室まで届けに行った。
 先生は笑っていたが……とりあえず間に合ってよかった。

 俺は教室へ入ろうとしたところ……

「柚葉、どうしよう。私、最悪来年学校をやめないといけなくなるかも」

「えー?! ちょ、ちょっと、どういうこと?」

 俺はそんな声を聞き、教室に入る前に身を隠した。
 月島ともう一人は……たしか、三宅だったな。

 月島が学校をやめる?
 いったいどういうことだ?

 俺はそのまま教室の外から聞き耳を立てた。
 盗み聞きは良くない。
 でも今はそれどころじゃない。

 月島と三宅の話し声が、断続的に聞こえる。
 PTA会長?
 月島の父親の借金?
 そういうことか。
 なんとなくだが、筋書きが読めたぞ。

「柚葉、私バイトがあるから、急がないといけない」

 月島が帰る気配がする。
 俺は足音を殺しながら、急いで隣のクラスに入り込む。
 ドアの内側に隠れていると、廊下を小走りに駆けていく足音が聞こえた。
 月島が帰っていったようだ。

 俺はすぐに廊下に出て、自分の教室へ入る。
 そこには三宅がなにやらノートに書き込んでいる最中だった。
 三宅はびっくりした様子で、顔を上げた。

「ほ、宝生君」

「三宅、すまない。立ち聞きするつもりはなかったんだが……今の話、詳しく教えてくれないか?」

「えっ……」

「月島に何があった? アイツは俺に何も話してくれない。でも……力になりたいんだ」

 三宅が視線を落とし、何かを考えていた。
 しばらくすると、おもむろに顔を上げ俺にこう言った。

「宝生君、お願い。華恋を助けてあげてほしい。力になってあげて」

 それから三宅は、事の成り行きを俺に話し始めた。
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