イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.56:何かあったら、言えよ

「熱いな」

「そりゃそうだよ。ヤケドしないようにね」

 宝生君は箸で切り分けながら苦戦中だ。
 熱いものが苦手なのかな?

「でもさ……本当に今まで言えなくてゴメンね」 

「だから何度も言わなくていいぞ。状況は理解したから。ところで和菓子屋……美濃川からは何も言ってこないか?」

「うん、特に何も。ただすれ違う時に、凄い形相で睨まれるけどね」

「何かあったら、言えよ」

「大丈夫だよ」

「月島」

「ん?」

 焼きそばを箸で口に運びながら顔を上げると、宝生君が真剣そうに私を見つめていた。

「これから何かあったら、俺に言え。確かに今回みたいに、俺は何もできなかったし助けてやれないかもしれない。でも月島が苦しんでいるのを見ているのは、俺も辛いんだぞ。逆の立場だったらどうだ? 俺が苦しんでいるのを、何もせずに看過できるか? 月島はそんなヤツじゃないだろ?」

「宝生君……」

 ……そういう言い方はズルいよ。
 私は胸が熱くなった。
 涙腺が緩みそうになる。
 目の前のコップに入った水を飲んで、なんとか誤魔化した。

「うん、わかった。これからは相談するね。その代わり、宝生君も私に言ってね」

「ああ。そうさせてもらう」

「それこそ私は何もできないかもしれないけど」

「そこは問題じゃないぞ」

 それから2人は、お好み焼きと焼きそばの残りを食べ続ける。
 ここは焼きそばもお好み焼きも、どちらも美味しい。
 あっという間に2人とも完食した。

「ごちそうさま。美味かったぞ」

「でしょ? ここのお好み焼きは、山芋が入っててね。生地がふわふわなんだ」

「なるほどな。よくここに来るのか?」

「たまにね。柚葉と来ること多いかな」

 私達は店を出て、たわいもない話をしながら歩いていく。
 こんなふうに宝生君と、また話せるようになってよかった。
 私は心から安堵した。
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