イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.63:注目の的

 そしてお昼の休み時間。
 引き続き私たちは、注目の的となった。

「おっ、美味そうだな。それじゃあ、いただくぞ」

「はい、どうぞ……どう?」

「うん、普通だ」

「普通?」

「ああ。普通に……ちょ、ちょっと待て。まだ味わってないぞ。だから危ないって。口の中に指を」

「か・え・し・な・さ・い」

「ねえ、これから僕たちこの夫婦漫才を見せつけられるわけ? 結構ツライんだけど」

「もう、ハリーは了見が狭いわね。そんなんだから振られるんだよ」

「き、傷口を(えぐ)らないでくれる?」

 いま私と宝生君、それに柚葉とハリー君の4人で、机を寄せ合ってお弁当を食べている。
 私は彼の分のお弁当を作ってきた。
 昨日彼からリクエストがあったからだ。

「この唐揚げ、マジで美味いぞ」

「最初からそう言ってよ」

「でも毎日は大変だから、作らなくてもいいぞ。俺は今まで通り学食で食べるし」

「べ、別に私はお父さんの分のついでに作ってるだけだし。全然大変でもないし」

「うわー、華恋、ツンデレ乙~」

「やっぱり僕、かなりツライかも……」

 こうやって4人で食べよう、と言い始めたのは宝生君だ。
 どういう心境の変化だろうか。
 ひょっとして私が緊張しないように、彼が気を使ってくれているのだろうか。

「なあ、三宅も張本も、映画って好きか?」

「うん、よく見に行くよ」
「僕も好きだけど……」

「『破滅の牙』の劇場版が手に入ったんだが、見に来ないか?」

「手に入ったって? あれってまだ上映中じゃん」

「発売前のテスト版DVDが手に入ったんだよ。よかったら見に来るか? 俺の家に」

「えっ? それって僕たちが宝生君の家にお邪魔しても、いいってこと?」

「ああ。家にシアタールームがある。もちろん映画館みたいに大きくはないけど、それなりに大きなスクリーンで楽しめる。音響だって悪くないぞ」

「えー行きたい!」
「是非お邪魔したいな」

 私は嬉しかった。 
 宝生君が柚葉とハリー君とお友達になろうとしてくれている。
 私のお友達と仲良くなってくれるのは、私だって嬉しい。

 ひょっとしたら……いままでお友達がいなかった宝生君が、変わろうとしているのかもしれない。
 私が何か協力できたら……少しでも彼への恩返しになるだろうか。
 いや、そんな事を考えること自体おこがましいことだ。

「宝生君、私との賭け、忘れてないよね?」

「ん? ああ、そう言えばそんなのあったな。マクドなら無料券がまだたくさんあるから、今日の帰りにでも行くか?」

「えー本当に? やったぁ! 皆で行こうよ」

「僕も行っていいの?」

「私も今日はバイトないし、いいよ」

「よし、じゃあ皆で行こう」

「やったー。やっとマンゴーシェイクが飲めるよ」

「ハリー、どんだけマンゴーシェイク好きなのよ」

 私たち4人はとにかく周りから注目を浴びた。
 でも15分もしたら、全然気にならなくなった。
 
 まわりがどうか、とか全然関係ない。
 宝生君のそういう考え方を、私は少しだけ理解できたかもしれない。
 あるいは単にいままで私が、周りの目を気にしすぎていただけなのかもしれない。
 いずれにしても、宝生君には教わることが多い。
 本当に感謝しかない。

 明日のお弁当は、何を作ろうか。
 他に好きなおかずは何かな?
 あとでマクドに行った時に、聞いてみよう。
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