あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい
洞窟の中は暗くて寒くて足場が悪く、歩きづらかった。
来るときにはついていた松明が、今はまったくない。
小さな懐中電灯をつけた彼の先導で洞窟を進む。
デンカの警告通り、洞窟は分かれ道がいくつもあって迷いそうだった。
風磨も迷うのではないかと疑ったが、出口の光が見えるに至って静穂はようやくホッとした。
「あ!」
先行した風磨が、外に出た瞬間に叫んだ。
なんだろう。
気になって静穂も続く。
出た瞬間、まばゆい光に目が眩む。
手をかざして見渡し、立ち止まる。
眼の前にはあやかしたちがいた。
「なんで!」
振り返るとすでに洞窟はヌリカベで塞がれている。
「そんな!」
「お持ちしてましたよ」
雷刀が前に一歩出る。顔はにこやかだが、目が笑っていない。
「あやかしの術のせいでもとに戻ったのか」
風磨は一人で納得したようにうなずき、前に出る。
「ここは俺に任せろ!」
任せちゃいけない気がする。
「やめたほうがいいと思う」
一応、止めてみる。
「止めるな! 世界は俺の肩にかかっている!」
「かかってないと思う」
静穂の言葉は無視されて、風磨は両腕をかまえる。
「やめて、危ないよ!」
「なぜそんなに止める!?」
風磨が振り返りもせずに言う。
「えっと……あなたに怪我してほしくないから」
多分負けるからなんて言えなくて、静穂はそう言って止める。