あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
序章 孤独な皇太子



(りゅう)が突然いなくなり、もう二週間が経ってしまったな……」

 城壁で囲われた宮城内の東の一画に、一際目立つ大きな三階建の宮殿があった。
 色鮮やかな琉璃瓦と、朱色の柱が幾つも並ぶその建造物は、一目で身分の高さが窺える。
 これが皇太子専用の邸宅、蒼山宮(そうさんきゅう)
 その一番高い場所の私室で、窓際の牀に腰掛けながら就寝前の穏やかな一時を過ごす一人の青年。(とう)伯蓮(はくれん)
 彼の均整のとれた美しい横顔は悲しい表情を浮かべたまま、星々が輝きを放つ夜空に向け優しい声を囁いていた。
 すると、その膝にちょこんと乗りおとなしく撫でられている小さなあやかしが、「ミャウミャウ……」と鳴く。
 猫の姿をしているが耳だけが兎のように大きい、東雲色の“(せい)”と名付けられているそれは、
 同じくあやかしでつがいの流に思いを馳せていた。

「星も早く流に会いたいのだな。私もだ」

 皇太子だけが住まう、この東宮区域のどこかに必ずいる。
 そう思いながらも、自由に捜索に出ることもできない己の身分を憐れんでいると、
 奇跡的なものが視界に映った。

「流星だ……」

 流星が夜空を駆ける時、天の神が願いを叶えるという言い伝えがある。
 伯蓮は静かに目を閉じて、流の早期発見を願い届けた。



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