降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
誰だろう、こんな時間に。

モニターを確認すると、お隣さんが玄関前に立っている…………え、なんでっ!?

“私、なにかやらかしたっけ!?”と、慌てて玄関へ向かって、ガチャッ!!と勢い良く玄関ドアを開けた。


「お、おかえりなさい!!」

「…………」


────── 穴があったら入りたい。


テンパりすぎてお隣さんに『おかえりなさい!!』とか言っちゃったし、めっちゃ部屋着だし、なんならエプロンも付けっぱなしだし……最悪すぎる。

そして、相変わらずの真顔だし。


「あ、あの……すみまっ……」


謝ろうとすると、無言で紙袋を差し出してきたお隣さん。


「……えっと、なんですか……?」

「礼だ」


・・・・なんの……?


「いや、私……お礼をされるようなことしてないんですけど……」

「傘」

「あ、ああ……傘ですか。小さかったですよね、すみません」


わざわざ紙袋に折り畳み傘を入れて返しに来てくれたのかな?

ていうか、あげるって言ったのに……。

まぁ、サイズが合わない傘なんて要らないか……無いよりはマシだと思うんだけど……なんて思いつつ紙袋を受け取った。


「助かった」

「いえ、そんな……」


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