降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
雨の音がずっと耳にへばりついて離れない。

頭の中で雨音が響く。


『梅雨は明けるのか、夏は本当にやってくるのか』


そんな漠然とした不安に駆られるほど、降りしきる雨がとても冷たくて、梅雨の時期が妙に長く感じる。

だからこの時期は、私を憂鬱にしかしない。

まぁでも、この梅雨が好き……なんて人はそうそう居ないか。誰だって憂鬱になるよね。

濡れるし、湿気すごいし、ジメジメするし……挙げたらキリがなくなっちゃう。

この時期が嫌なのは私だけじゃない……そう言い聞かせながら、この辺りだとそこそこお高いで有名なマンションへ辿り着いた。

この“そこそこお高いで有名なマンション”が私の家。

ひとり暮らしをする私の為に、セキュリティがしっかりしているマンションをお母さんが選んだ。


── チンッ。


エレベーターの扉が開くと、既に他の住人が乗っていて、『こんにちは』と挨拶を交わして、軽く会釈をする。それから特に会話をすることなく、住人は先にエレベーターを降りていった。


ここの住人は互いを干渉し合わない。だから、結構気が楽でありがたいんだよね。

最上階に着いて、エレベーターから降りながらスマホを取り出し、前を確認しつつお母さんにメッセージを送る。

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