降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
それに、今まで何回も何回も制服姿で会ってるのに、特に何も言われたことないんだもん。


『ガキはすぐ風邪を引く。面倒だから着替えて来い』……そういうことでしょ?


「分かりました!!着替えればいいんですよね!?着替えて来ればいいんでしょ!?着替えてきます!!」

「お、おいっ……」


ダァーーッと勢いよく喋った私に、あのぶっきらぼうな桐生さんが、ほんの少し焦った表情をしていた。

でも、そんなこと知ったこっちゃない!!

エントランスを駆け抜け、ロビーを通過し、エレベーターのボタンを連打しまくった。


「おい」


少し後ろから桐生さんの声が聞こえる。

でも、振り向くことができない。

早く、早く、早く!!エレベーター早く!!


── チンッ。


到着したエレベーターに素早く乗って、再びボタンを連打しまくる。

もう少しで扉が閉まる……と、ホッと胸を撫で下ろそうとした時、ガンッ!!と大きな手が入ってきて、扉を押さえた。


「ひぃっ!?」

「おい、梓」


もちろん閉まりそうだった扉は開いてしまい、中に入ってきたのは言うまでもなく桐生さん。


・・・・あんな勢いで物申して逃げてきた後だから、この密室で二人きりとか気まずいんですけど。

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