完璧ブラコン番長と町の謎

「ここのお店は、竜二さんのご家族が経営されてるんですか?」
「違ぇよ。俺は居候だ」

 その言葉を聞いて、私はへえ、と思った。
 家族では無い人のところでお世話になって、店のことをする。さっきまで自分とは別世界の人間だと思っていたけれど、何となく親近感を持った。
 けれどそこから、また会話が途切れる。
 今度は竜二さんが口を開いた。

「……さっき、泣いていたけど」
「え、ああ」

 ……私、泣いてたんだ。
 頬をさわると、確かに涙のあとがある。恥ずかしい。泣く権利なんて、私にはないのに。

「ちょっと……酷いことを言ってしまって……」

 自分のしでかしたことを言うのは、言いづらかった。
 だけど、言いづらい状態で話すことが、私への罰なんじゃないかと思った。
 私が妖怪のことを抜きして話すと、竜二さんは、「冬夜が怒ったぁ!?」と大きな声を出した。

「マジかよ……いや、ナツが絡んでんなら、ありえるけど……あの冬夜が……」
「そ、そんなに珍しいんですか?」
「珍しいな。人をたしなめることはしても、怒るなんて見たことねえ」

 それで? と促されて、私は続けた。

「その時に……私、ついカッとなっちゃって……冬夜くんを傷つけるようなことを言ったんです」
「…………傷ついたの?」

 アイツが? と、半信半疑な顔で尋ねられる。

「……にわかには信じられねえな」
「そ、そうですか……?」

 冬夜くんだって、傷つくことはあると思うけどな……?

「アイツは山のような人間だ。俺が何を言っても、何をやっても、涼しい顔をしやがった」
 
 そう言って、竜二さんは作業を始めた。 

「同じ目に遭ってくれれば、俺の惨めな気持ちを分かってくれると思ったんだ。……痛みつければ、分かってもらえると思っていた」

 んなこと、全然なかったけどな。そう竜二さんは言う。
 その気持ちを、今の私は痛いほど理解出来た。
 
 ――私は自分の意思で、冬夜くんを傷つけようと思って傷つけた。自分の傷を思い知らせてやろうと思って、冬夜くんが絶対に言い返せないことを言い放った。
 だけど、わかるはずがない。
 言葉ですら中々伝わらないものが、痛みなんてもので伝わるはずがないのに。

「ほらよ」

 竜二さんの声に、はっと私は我に返る。

「なおしたぞ。ついでにタイヤの空気も入れておいた」
「あ……ありがとうございます」

 運転してみろ、と言われたので、私は店の前で漕いで見せた。
 シャーッと気持ちのいい音がするのと同時に、ピカーッ! と灯がつく。タイヤもしっかり空気が入っているため、少ない力でもスイスイ前へ行った。
 すごい。こんなにも違うなんて。

「お前さあ、もう少し物、大切にしろよな」

 見ててハラハラすんぞ。
 竜二くんに言われ、私はキョトンとする。
 そういえば、最初に竜二さんに絡まれた時、私竜二さんの電動自転車を倒してしまったんだっけ。

「あの……あの時はすみませんでした」
「あ?」
「電動自転車、倒してしまったから」

 高いんですよね、と言うと、竜二さんははあ、とため息をついた。
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