旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
第一話
 ハバリー国は、十以上の部族からなる新しい国である。
 各部族間でもいざこざがよく起こっていたが、トラゴス大国に搾取されぬようにと、彼らは手を結んだ。
 国の代表――国王には、古城ラフォンを所有するミルコ族の族長が就いた。ハバリー国民の半数がミルコ族であることを考えれば、妥当なところだろう。
 古城ラフォンを中心に扇形に広がる首都サランは、もともとはミルコ族の大きな集落である。今ではそこにミルコ族以外の部族の者も集まり、にぎやかな街を作っている。多民族が集まっているためか、比較的自由であるのも、サランの特徴ともいえよう。
 太陽が昇り始める朝、サランの街は黒から煉瓦色へと染め変わる。煉瓦屋根の煙突からは、次第に煙がもくもくとあがってきて、パンを焼く香ばしいにおいが立ちこめる。
 ハバリー国が建国されて二年。
 人々もハバリー国民としての生活に慣れ、ダスティンも国王としてやっと勝手がわかってきた頃、彼は一通の親書に悩んでいた。
「アーネスト、これ、どう思う?」
 国王の執務室。採光用の天窓から降り注ぐ太陽の光は室内を明るく照らし、葡萄酒色の絨毯に趣を与える。
 古城といえば古くさいイメージがあるが、建物自体に年季はあるものの内装は手入れが行き届いている。むしろ、先人の知恵による快適な空間でもあるのだ。
 ダスティンは二十四歳という若さでハバリー国の国王に就いた。ミルコ族に多く見られる黒髪を、垂れ下がった犬の尻尾のように一つにまとめている。
 ミルコ族の族長はダスティンの父親であったが、ハバリー国建国時に族長の座から降りて、ダスティンにその地位を譲った。今となっては、ダスティンの父親も立派な隠居爺である。
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