旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
第十話
 ハバリー国、国境の街ガイロ。ここには、主にスワン族が住んでいたが、ハバリー国となって十年以上が経ち、人々の行き来もあって、スワン族もばらばらとなりガイロの人口の三分の一以下になってしまった。
 アーネストがガイロの街へ来て十二年。つまり、オレリアと結婚して十二年が経ったわけだが、彼女とはあれから一度も顔を合わせていない。
 いや、厳密に言えば、アーネストは一度だけオレリアに会いに行った。だけど彼女と言葉を交わしたわけではないし、オレリアはアーネストに気づいてもいない。アーネストがこっそりと遠くから見つめただけ。だから、互いに顔を合わせてはいない。
 アーネストがオレリアに会に行ったのは二年前――彼女が十八歳になったときである。
 ハバリー国では十八歳で成人とみなされる。
 そのころ、ガイロの街の情勢はわりかし落ち着いており、アーネストの部下が『留守はまかせてください』と胸を張ったのもきっかけだった。
 ガイロから首都サランまではどんなに急いでも三日はかかる。
 幼い少女だった彼女が、どのような女性に成長したのか。
 逸る気持ちとともに早馬を走らせて、ラフォン城へと向かう。
 なんとかオレリアの誕生パーティーに間に合ったようで、見張りの兵に軽く挨拶をしてすぐに会場の大広間へ足を運ぼうとしたが、他の者に見つかるのを避けて、庭園側からまわることにした。庭園からバルコニーへと続く階段をあがり、そこからこっそりと大広間を見渡す。
 パーティーはすでに始まっており、外まで楽団の奏でる音楽が聞こえてきた。
 広間の中央では深紅のドレスの裾を翻しながら、楽しそうに踊っている女性の姿に思わず目を奪われる。
< 63 / 186 >

この作品をシェア

pagetop