シロツメクサの優しい約束〜いつか君を迎えに行くよ〜

元カレ

大学に入って三回目の春がやって来た。

今年の新入生と思われる初々しい姿の学生たちの間を通り抜けて、ゼミが終わった私はいつもの帰り道、大学の構内を歩いていた。

構内の桜をなんとはなしに見上げながら歩いていると、不意に後ろから腕を掴まれた。

驚いて振り向くと、一年生の冬頃から二年生の夏前までつき合っていたサークルの先輩だった人が立っていた。

彼は懐かしそうに目を細めて笑った。

「みちえ、久しぶり」

「憲一君……」

私の表情は固まった。

「元気だった?もうサークルには来ないのか?」

「もうやめました。あの、ごめんなさい。急いでいるので」

私はふいっと顔を背け、憲一の手を振りほどいた。

「待ってよ。俺さ、みちえと別れた後、ものすごく反省したんだよ。全然電話に出てくれないし、部屋に行っても出てきてくれないし、謝りたくても謝るチャンスなかった。その上、サークルでも顔を見られなくなって寂しくってさ」

内心、今さら、と思う。もう別れたはずなのに。

私は盛大なため息を吐き出した。

「もう、終わったことでしょ?今さら謝られても、私の気持ちは何も変わらないですけど」

反省しているというポーズでもあるのか、憲一は肩をすぼめて立っている。

「やり直したいんだ」

この人に初めて会った時は、優しい人だと思った。甲斐甲斐しく私たち新入生の世話を焼いてくれる姿に、好意を持った。年は私より一つしか上ではなかったけど、同い年の男の子たちよりも大人に見えて素敵だと思った。そういう気持ちは伝わるものなのか、憲一もだんだんと私に好意を示してくれるようになった。そんなある日、彼から付き合ってほしいと言われて、私は頷いた。

その頃の私にとっての征司は、もう会うことのない、思い出の中の人になりつつあったのだ。

当時、憲一との交際は順調だったと思う。

彼は優しくて、喧嘩らしい喧嘩もしたことがなかった。険悪な空気を察すると、憲一から謝った。そんなだから、私たちは仲がいいのだと思っていた。デートで手を繋いで歩いたり、帰り際にキスをしたり、普通の恋人同士だったと思う。

ただ――。

私たちの間にセックスはなかった。
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