シロツメクサの優しい約束〜いつか君を迎えに行くよ〜

別れたきっかけ

その日は会う約束をしていなかったけれど、私は憲一を驚かせようと突然思いたった。連絡しないで部屋まで行ってみようと思った。後々になって考えてみれば、色んな意味で考えなしだった自分に呆れてしまうのだけど……。

彼の部屋の前に着き、ドアチャイムを鳴らすが、なかなか出てくる気配がない。

今はまだ夕方だけれど、早々とお風呂にでも入っているのだろうか。それとも電話でもしているのだろうか。

そう思って、少し時間を置いてからもう一度ドアチャイムを鳴らそうと、私はアパートの建物からいったん離れた。適当に時間を見計らって戻ってくると、ベランダ側から見えた窓の向こうに、ぼんやりと灯りが見えていた。

部屋にはいるんだな――。

そう思いながら、私は再びドアチャイムを鳴らした。しばらく待ったが、一向に出てくる気配がない。

まさか具合でも悪くて、倒れているんじゃ――。

急に心配になって、何度かドアを拳で叩いた時だった。

内側でロックが外れる音がして、ドアチェーンをしたまま、憲一が顔を出した。

私はほっとして、彼に笑いかけた。

「来ちゃった」

驚きつつも喜んでくれると思っていた。しかし、憲一は嬉しそうな顔をするどころか、ひどく動揺した様子を見せた。

「え、っと、みちえ?今日って、会う約束してたっけ?」

「約束はしてないけど、驚かそうと思って。もしかして、迷惑だった?」

「あ、いや、迷惑とかじゃなくて、あのさ、ちょっと今、立て込んでて……」

あぁ、やっぱり前もって連絡すればよかったんだ――。

歓迎してくれると思っていたのと真逆の反応に、私はしゅんとしてわずかに視線を落とした。その時、女物のサンダルがあることに気がついた。

いったい、どういうこと――?

頭の回転が急に鈍り、のろのろと憲一の顔を見ようとして、さらに気づく。彼が上半身裸であること、その胸元に紫色の小さなあざがいくつも散っていることに。
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