悪名高いエリート弁護士と秘密の恋人契約。
第1章 悪徳弁護士・葛城 央河
 大学卒業後。私が新卒で入ったのは、大手法律事務所だった。

 もちろん、弁護士になるような頭はないので、事務員としてだ。

「お疲れさまでした。お先に失礼します」

 遅くまで残っている所長に声をかけて、私はぺこりと頭を下げる。

 すると、所長の葛城(かつらぎ) 風雅(ふうが)さんが顔を上げる。そして、にっこりと笑って「ご苦労さま」と言ってくれた。

「なんかごめんね。すっかり遅くなっちゃって……」

 風雅さんがちらりと窓の外を見つめる。日も落ちていて、空は夜空に様変わりしている。時計の針が差しているのは、午後七時半。

「いえ、お手伝い出来てよかったです」
「ははっ、そう言ってくれると助かるよ。残業代は出すからね」
「はい!」

 勢いよく返事をした私を見て、風雅さんが笑う。

 その笑顔を見て、「あぁ、今日も頑張ったなぁ」と実感して、扉を閉めた。

 この葛城法律事務所があるのは、大型ビルの五階。いつもならば混んでいるエレベーターは、この時間になると閑散としている。

(今日はなにを食べようかなぁ)

 そう思いつつ、私は一階のボタンを押して、スマホを立ち上げる。

 ディスプレイに映っている通知を一通りチェックして、大したものがないことにほっとする。
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