幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。


『私と婚約したとして、青山フーズに何の利益もないよ』

『うちは政略結婚しないといけないような経営してない。それに親父は恋愛結婚推奨してるからな』

『…和樹くん私のこと好きじゃないでしょ』

『…ああそうだよ、でも昔から俺の言葉に傷付いて泣きそうな顔して、親の為に耐えてるお前の顔を見るのが好きだった。結婚すれば、いつでも美夜のそういう顔見れるだろ』

スマホから聞こえた和樹の言葉にゾッとした。不快感が込み上げてくる。和樹が得体の知れない何かに思えてきた。

『何それ、意味が分からない。私婚約なんてしな』

『お前の意見なんて聞いてない。うちの親もお前の親も乗り気。親戚にも話を通してる、それに』

和樹は勿体つけた後、こう言い放った。

『社長から持ちかけられた婚約話を蹴ったら、お前の父親の立場どうなるんだろうな?親父と仲が良いとはいえ顔に泥を塗られたらそれ相応の対応をするぞ?ああ見えて親父、厳しいからな。俺も断られたらショックで有る事無い事言うかもしれないな』

美夜は息を呑んだ。明確に脅しにきている。スマホを待つ手に力が入る。

(断ったらお父さんをクビにでもするつもり?そんな権限和樹くんにはないし、社長だって息子の言葉を鵜呑みにするわけ…直々に持ちかけられた話を蹴ったら降格くらいはあるかも…)

美夜が大学に通えているのは父のおかげ。父の進退に影響が出れば、自分にも影響が及ぶ。自分は未だ親の庇護下にある存在なのだ、と突きつけられた気分だ。

(…私が我慢すれば)

押し黙った美夜に、電話口の和樹が鼻で笑ったのが分かった。

『美夜みたいな何の取り柄もない奴と結婚したい物好き、俺以外に居ないぞ。就職だってそうだ、大して頭も良くないお前は青山フーズ(うち)は逆立ちしたって入れないだろう?就職先と結婚相手、同時に手に入るんだ…』

俺はお前の為に言ってやってるんだ。

美夜の心に言葉の刃が深く刺さる。それから先は和樹が何を言っていたのか、覚えていない。気づいた時には通話が切れていた。

(……)

美夜は虚な目のまま家を飛び出した。
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