小林、藝大行くってよ
 海荷ちゃんは月見バーガーが好きやったはずやけど。なんで食わんのやろか。
 まさか、ポテトダイエット? いや聞いたことないわッ!

 なんやめっちゃ気になるけど、ノンデリ野郎と思われたくないしな。我慢や。それが紳士ってもんやで。下手なことは言わんぞ。

「こうしとると、なんや付き合うてたときのこと思い出すなぁ」

 海荷ちゃんが、しんみりした表情で言った。

 もしかして、まだおれに未練があるとか……いやいや、色気出したらあかんわ。色気は浅尾っちの専売特許やしな、うん。

「そ、そやなぁ。あのころも、ようマクド来とったもんな。ほんの1年前やのに、千年前のことのように感じるなぁ」
「ほんまやなぁ……ちょっとだけ、戻りたい気もするわ」

 ……めっちゃ意味深なこと言うやん。
 あかん、あかんぞ。おれには遠距離恋愛は無理やねん。海荷ちゃんのことは大好きやけど、ふたりの将来を考えると、うまくいくようには思えんのや。

 学生の本分は勉強である! 遠くの恋人より近くの学友である! つまり! 恋人はすぐ近くにいてほしいのである!

「一佐くんって、いつもポジティブやろ。そやし、めちゃくちゃ元気もろてたんやで。それがなくなってしまうと、なんや寂しくてなぁ」

 ウッ……む、胸の鶯がさえずりはじめたッ……!
 なんやなんや、めっちゃ攻めてくるやんけ! え、え、まさかこれは、おれとヨリを戻したいっちゅー意思表示なんか?

 こ、心が揺らぐ……ッ! 芸術の道と恋の道の狭間で、小林一佐は揺らいでいるッ!

 彼女は欲しい。間違いなく欲しい。喉から手が出るほど欲しいッ!
 恋のときめきは、表現の幅を広げてくれるんや。浅尾っちかて、黒髪美人の彼女の存在がいい刺激になっとるはずやしな。多分。知らんけど。

「……なぁ。一佐くんって、いま彼女おるん?」

 ズバッときたァ!
 ど、どうする? 海荷ちゃんが次の恋に踏み切れるように、彼女おるって嘘つくか?

 いや、あかん。嘘は嫌いや。ましてや海荷ちゃんに嘘つくなんて、そんなんできひん。
 やはりここは、正直に自分の気持ちを言うしかないわ。それが男っちゅーもんや。

「彼女は……おらんわ」

 おれが言うと、海荷ちゃんは心なしか嬉しそうな顔をした……ように見えた。

「そうなんや。そやけど、一佐くんなら大学でも人気者ちゃうん?」
「そ、そやなぁ! 藝祭のブレイクダンスで、一躍注目の男になってしもたさかい。上野の町歩いとると、常に視線が突き刺さるねんなぁ」

 ほんまやで。嘘やないで。最近、アメ横のおっちゃんおばちゃんたちにも、めっちゃ見られんねん。
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