初恋シンドローム



 ────結局、大和くんとふたりで帰路(きろ)につき、家に帰り着いたわたしは早々に自室へ上がった。
 どさ、とベッドに倒れ込むとマットレスが跳ねる。

「ふぅ……」

 一日の出来事があまりに濃くて、まだ頭の中が混乱していた。

 彼との再会という事実をやっと冷静に受け止められたいま、ますます思考や感情が絡みつく。

(本当にまた会えたんだ)

 ようやく実感が湧いてきた。
 置き去りになっていた気持ちが追いついてくる。

『あの約束、俺はいまでも本気だよ』

 どくん、と射られたように心臓が高鳴る。
 大和くんの存在が意識を満たしそうになったとき、ふいにスマホが震えた。

「や、大和くん」

 ちょうど彼からのメッセージだった。勢いよく起き上がる。
 アカウントは別れ際、言われるがままに交換したのだ。

【今日は色々とありがとう、風ちゃん】

 通知をタップし、トーク画面を開いた。
 そうしてから、早すぎたかも、とわずかな後悔が押し寄せてきて慌てる。

【まだどこか夢みたいだけど、運命なら当然だよね】

 こうして再会を果たしたことを指しているのだろう。
 “偶然”とは言っていたけれど、運命を信じるならば必然だと言いたいみたい。

【また明日】

 立て続けに届いたメッセージを丁寧に目で追って、何度も読み直す。
 キーボードを開いたはいいものの、なんて返そうか迷って指が彷徨っていた。

【わたしも大和くんとまた会えて嬉しい】

 無難に、でも正直に言葉を紡いで送る。
 ちょっと気恥ずかしくなって「また明日ね」と急いで続けると画面を閉じた。

「…………」

 ぼんやりと目の前の(くう)を眺め、二度目のため息をつく。

 ずっと忘れられなかった初恋。
 彼はいままで、わたしの心の大部分を()めてきた。

(……でも、全然分からなかったな)

 幼少期の記憶しかなくたって、たとえば街中で偶然すれ違っただけでも、すぐに気がつくと思っていた。
 それこそ運命なら、第六感のようなものが働いて。

 だけど、そんなことは決してなかった。
 彼の名前を聞いて、そして彼がわたしの名前を呼んでくれても、まだ気づかなかったのだから。
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